人気ブログランキング |

林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
カテゴリ
全体
古書日録
もよおしいろいろ
おすすめ本棚
画家=林哲夫
装幀=林哲夫
文筆=林哲夫
喫茶店の時代
うどん県あれこれ
雲遅空想美術館
コレクション
おととこゑ
巴里アンフェール
関西の出版社
彷書月刊総目次
未分類
以前の記事
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
more...
お気に入りブログ
NabeQuest(na...
daily-sumus
Madame100gの不...
最新のコメント
窮屈な会場になってしまい..
by sumus2013 at 09:01
おつかれさまでした。開店..
by 牛津 at 17:38
ユーモアを翻訳するとユー..
by sumus2013 at 10:23
拙著、ご紹介いただきあり..
by manrayist at 08:40
どこかで見た覚えがあった..
by sumus2018 at 20:05
メモ帳
最新のトラックバック
天才画家ゴッホの生涯と画..
from dezire_photo &..
検索
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧


カテゴリ:文筆=林哲夫( 49 )

本の虫の本

f0307792_21555733.jpg
『みちのく春秋』2019年春号に菅野俊之さんが紹介してくださいました。



f0307792_16094400.jpg
『Pen』2018年11月1日号誌上で紹介されました。



f0307792_16185782.jpg

f0307792_20401864.jpg


f0307792_20401465.jpg


f0307792_20401120.jpg
赤井稚佳イラストより



本を食べる
 聖書には本を食べるという話が二度出ています。まずエゼキエル書第三章。

「我にいひ給ひけるは人の子よわが汝にあたふる此巻物をもて腹をやしなへ膓(はらわた)にみたせよと我すなはち之をくらふに其わが口に甘きこと蜜のごとくなりき」(1)

 有名なのはヨハネ黙示録第一〇章でしょう。

「われ御使のもとに往きて小き巻物を我に与へんことを請ひたれば、彼いふ『これを取りて食ひ尽せ、さらば汝の腹苦くならん、然れど其の口には蜜のごとく甘からん』われ御使の手より小き巻物をとりて食ひ尽したれば、口には蜜のごとく甘かりしが、食ひし後わが腹は苦くなれり。」(1)

 アルブレヒト・デューラーにはこの場面を描いた版画があります。それを見るとヨハネは冊子本を飲み込もうとしています。え? 引用した日本語訳では「巻物」と訳されてますけど……。英語版を当たってみますとエゼキエル書の方は「roll」で黙示録の方は「the little book」です(2)。さらにヴルガータ聖書のラテン語はどうなっているのか調べてみますと、エゼキエル書は「volumen」で黙示録は「librum」です(3)。「volumen」は「巻物」で、そして「librum」はデューラーの描くような書物とみていいのでしょうか?

 ところが、ある方にギリシャ語訳で黙示録の該当箇所は「biblaridion」となっており「a little book」の他に「a little papyrus roll」という意味もあると教えていただきました。そもそも黙示録の成立した時代(紀元後一世紀?)には冊子本はまだ一般的ではなかったはずですから、デューラーの絵が間違っているという可能性が高いように思われます(4)。
 エゼキエルやヨハネとちがって、世俗の王様から本を食へと言われた人もいました。[以下略]

(1)『旧新約聖書』米国聖書協会、一九一四年。
(2)『THE HOLY BIBLE』AMERICAN BIBLE SOCIETY, 1877.
(3)ヴルガータ聖書のサイト(http://www.drbo.org/lvb/)より。
(4)フランス語の聖書ではどちらも「livre」のようですが、「livre」も古くはパピルスでできた巻子の形をも意味したと言います(http://www.cnrtl.fr/definition/livre)。なお、現存最古の冊子本は四世紀に作られたとされるカイロのコプト博物館蔵の聖書『詩篇』。冊子本は一世紀後半から二世紀頃に現れたと考えられているようです。



空飛ぶ本
 芥川龍之介の短篇小説「魔術」をご存知でしょうか? 主人公「私」は、ある時雨の降る晩、印度人ミスラ君に魔術の実演を見せてもらいます。ミスラ君がちょいと指を動かすと、書棚に並んでいた書物が一冊ずつ動き出しました。「夏の夕方に飛び交う蝙蝠のように、ひらひらと宙へ舞上」っては「うす暗いランプの光の中に何冊も自由に飛び廻って、一々行儀よくテエブルの上へピラミッド形に積み上り」すぐに「もとの書棚へ順々に飛び還って行く」ではありませんか。仰天した「私」はミスラ君にぜひとも魔術を教えて欲しいと頼み込みます(1)。

 コウモリのように、いや、まるで鳥のように自由に空を飛び交う本たち、それはウィリアム・ジョイスの短篇アニメ「モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本」(2)にも描かれています。主人公のモリス・レスモアは読書中にいきなり襲ってきた突風に吹き飛ばされ、知らない土地に放り出されます。あてもなくさまよっていると、何冊もの空飛ぶ本に引っぱられて中空に浮かんでいる若い女性に出会います。すると、彼女の手に乗っていた一冊の本が、ピョンピョンとモリスのところへやって来て、彼をある石造りの建物へといざなうのです。そこは羽ばたく本たちの巣なのでした。モリスは本の守り人としてそこで一生を終ります。そして、彼もまた、空飛ぶ本とともに昇天していくのでした。

 アニメの冒頭シーンでは、強烈な風がモリスの持ったノートの文字を空中に吹き散らしてしまいます。これはカルロス・フエンテスの短篇SF「火薬を作った男」を連想させてくれました。フエンテスはもっと深刻にページから文字が消え去ってしまう光景を描き出しています。

「本という本の活字がインクの蛆のようになって床に散らばっていたのだ。あわてて本を何冊かひらいてみたが、どのページもまっ白だった。悲しげな音楽がゆっくりと、別れを告げるようにわたしを包んだ。文字の声を聞き分けようとしたが、その声はすぐにとだえ、灰になってしまった。このことがどんな新しい事態を告げるのかを知りたくて外に出た。空には蝙蝠たちが狂ったように飛びかっていた。そのなかを文字の雲が流れていた。ときどきぶつかりあっては火花を散らし、……《愛》《薔薇》《言葉》と文字は空で一瞬輝くと、涙となって消えた。」(3)

 妖しくも美しい情景です。作者が、紙の本の終りを、空を飛び交う言葉のスパークとして、表現しているとしたら、それは、ひっきりなしに電子データをやり取りする今日の世界を、クラウド(4)という概念にいたるまで、かなり正確に予言しているのではないでしょうか。[下略]

(1)『芥川龍之介全集3』ちくま文庫、一九八六年。明治時代の東京では市内でもふつうに蝙蝠が見られたそうです。
(2)ウィリアム・ジョイス著、おびかゆうこ訳『モリス・レスモアとふしぎな空とぶ本』徳間書店、二〇一二年。William Joyce『The Fantastic Flying Books of Mr.Morris Lessmore』Atheneum Books for Young Readers, 2012。アニメは短篇アニメ部門でアカデミー賞を受賞しています。
(3)カルロス・フエンテス著、安藤哲行訳『アウラ』エディシオン・アルシーヴ、一九八二年。「火薬を作った男」の初出は短篇集『仮面の日々』(一九五四)。
(4)雲、クラウドコンピューティング(英: cloud computing)とは「コンピューティングリソースの共用プールに対して、便利かつオンデマンドにアクセスでき、最小の管理労力またはサービスプロバイダ間の相互動作によって迅速に提供され利用できるという、モデルのひとつ」(アメリカ国立標準技術研究所)だそうです。

f0307792_16044178.jpg

本の虫の本 単行本 – 2018/8/27




f0307792_16180542.jpg
イラスト=赤井稚佳



ほんのまえがき

 本の虫って、どんな虫でしょう?
 英語ではブックウォームというくらいですから、くねくねと本の上をはいずって回る青虫でしょうか。蛍雪時代なんて言葉もあります。本を照らす薄明かりを放つホタルでしょうか。何をバカなこと言ってるの、本の虫っていうのは紙魚[ルビ:シミ]のことでしょ、と今思った方、あなたはもう立派な本の虫になっていますよ、きっと。本棚の陰に身をひそめると、この上もない幸せを感じませんか? 触覚が生えて肌が銀色につやつやと光りはじめていませんか?
 五匹の本の虫が寄り集まってこの本を書きました。オカザキフルホンコゾウムシ、オギハラフルホングラシムシ、タナカコケカメムシブンコ、ノムラユニークホンヤムシ、ハヤシウンチククサイムシ。それぞれ形態はもちろん、ジャーナリズム、古本屋、新刊書店、装幀など、活動する領域も異なっていますが、単に本が好きとか、本を愛する、というだけでなく、文字通り、本を食べて本とともに暮らしていると言ってもいいくらいのムシたちです。
 本の世界にまつわるテーマを、これらホンノムシレンジャーたちが、自由に取り上げました。項目ごとにひとつの独立した読み物になっています。皆が思い思いに選びながらも、ほとんど重なる話題はありません。調整しようね、と打合せのときには相談していたのですが、調整の必要はありませんでした。ときに、似たテーマを扱っているとしても、ムシそれぞれの捉え方は同じではありません。そのくらいバラバラ、いや、ヴァラエティがありながら、本に対する姿勢には共通するものがしっかりと流れている、この一体感もまた本書の特長です。本の本のブックガイドとしても楽しんでいただけますし、また、元本の風姿を生かしながら自在に躍動するアカイホンカキムシのブック・イラストレーションを眺めるのも贅沢なひとときとなるでしょう。
 草原に棲むナイキホンアミアツメムシの発案からこの本は始まりました。「本の用語集を作りたいんです」と蚊の鳴くような声で相談されたときには、正直、多少の不安を感じました。ところが、虫選が進み、徐々に姿がはっきりしてくるにしたがって、本の虫コロリのアイデアを蜘蛛の糸のように次々と繰り出してくれたのです。この本の仕上がりが読者の皆様に刺激と安らぎを与えられるとしたら、それはもう虫愛ずるナイキムシの読み通りだと言えましょう。
 読み終わったら、いえ、読んでいる最中にも、書店へ出かけたくてたまらなくなります、ぜったい。そして、そこで発見するでしょう、本に対する、本とともに生きている虫たちに対する、見方がすっかり変わっていることを。本を取り巻く空間が、すみずみまで意味をもってイキイキと感じられるようになっているはずです。これであなたも立派な本の虫です。触覚が生えて肌が銀色に……はなりません、たぶん。
   著者虫代表 ウンチククサイムシ


オカザキフルホンコゾウムシ  キンイツ科
Onajihon Nandodemokau Bakadeii
浪花ニ産ス。幼虫時ヨリ漫画ト文学ニ溺レテ生育ス。第三ノ新人、梶井基次郎、庄野潤三、開高健ラヲ好ム。詩ヲ愛シ荒川洋治ニヲ師トス。学生時代ヨリてぃっしゅぼっくす転用ノ文庫本箱ヲ愛用ス。映画、落語、音楽ニモ精通ス。多クノ著名人ニ取材シソノ養分ヲ吸ウ。本ガびっしり詰マッタ地下洞ニ棲ム。多数ノ著書ニ加エ、詩集『風来坊』アリ。

オギハラフルホングラシムシ  キョムシソオ科
Kiokuyori Kirokuninokoru Dokushoseyo
伊勢ニ産ス。小学生デ第三ノ新人ヲ愛読シ、喫茶店デ漫画ヲ貪リ、ラジオ投稿虫トナル。高校生デあなきすとヲ志望ス。古本屋・中古れこーど屋ニ日参スルコトヲ夢ミテ神保町ニ隣接スル大学ニ入ル。高円寺ヲ根城ニらいたートシテ活動ス。辻潤、吉行淳之介、鮎川信夫、男おいどん、野球、将棋、トリワケ昼酒ヲ好ム。巣ニハ窓ヨリモ壁ト廊下ヲ欲スル。

タナカコケカメムシブンコ  リカジョシ科
Gikkurigoshi Yatte Ichininmaeninari
備中ニ産ス。幼虫時ヨリ運動ヲ好マズ学級文庫ニ入リ浸リ、アマリニ同ジ本ヲ繰リ返シ読ムタメ親虫ヲ心配サセル。高校デハ生物部、社会問題研究部ニ属ス。倉敷ニテ古書店「蟲文庫」ヲ開キ固着生活ニ入ル。苔、亀、星、猫、南方熊楠、木山捷平、原民喜ラヲ好ミ、「古本屋の少女」ヲ経テ「ガチの本屋」ヘト変態ス。

ノムラユニークホンヤムシ  ショテンイン科
Miwataseba Honyade Hitorikirigayoi
越前ニ産ス。文学全集・美術全集ニ囲マレテ育ツ。姉虫ノ影響少ナカラズ、学校図書館、近所ノ本屋ニテ座リ読ミス。『ぐりとぐら』ニ衝撃ヲ受ケ、少女漫画、山田風太郎、山田稔ラヲ愛ス。面接ニテ「三月書房が好き」ト書イテ恵文社一乗寺店ニ採用サレル。以来二十年、すぴんトすりっぷニハ過敏ナリ。

ハヤシウンチククサイムシ  カミキリキザミ科
Honwamita Megadaijito Omoitai
讃岐ニ産ス。瀬戸内ノ海ニ面シタ農村デ種々ノ虫トトモニのほほんト成育。幼虫時ヨリ漫画ヲ好ミ、漫画家ヲ夢ミルモ挫折、画家トナル。三十ヲ過ギテ文学ノ世界ヲ知リ同虫雑誌ニ混ザリ、著述、編集、装幀ノ業ヲ覚エル。京ノ都ニ飛来シテヨリ古書ニ塗レテ本ノウルワシサニ目ヲ開カレ、モッパラじゃけ買イニイソシム。


f0307792_08520191.jpg


f0307792_08520604.jpg


f0307792_08520982.jpg


f0307792_08521100.jpg

by sumus2013 | 2019-08-16 21:57 | 文筆=林哲夫 | Comments(4)

父の仕事場写真集

f0307792_17100861.jpg

ずいぶん前に予告しておきましたように、神戸のギャラリー島田で開催した個展「父の仕事場」の会場写真を一冊にまとめました。

B5判、本文32頁、フルカラー

会場写真、納屋の写真の他に郷里の思い出をつづったエッセイ四編「父の仕事場」「さぬきのソウルフード」「エンストしたミゼット」「松下と西尾」を収録しました。こちらは私家版ですので、下記サイトより、ご注文いただければと思います。

TH WORKS

f0307792_17100427.jpg


f0307792_17100090.jpg


f0307792_17095705.jpg


f0307792_17095232.jpg


f0307792_17094679.jpg


 さぬきうどんの讃岐に生まれ育った。昨今では「うどん県」などとも豪語しているわが郷里には、弘法大師空海が、土三寒六(夏場は塩分を濃くする)というその製麺の秘訣を唐土からもたらしたという伝説があるくらい、古くからうどんが普及していた……とはよく聞かされたものだが、同じ讃岐でも東部の、阿波との国境にほど近い白鳥(しろとり)という土地で育ったためか、あるいは単純に阿波の出の父がうどん嫌いだったためか、わが家の食卓にうどんが出ることは稀だった。手延べそうめんはよく食べた記憶があるのに反して、うどんにはさほど強い印象がない。

 同じ白鳥出身の詩人・桑島玄二の『白鳥さん』(理論社、一九七七年)という本によれば、わが郷里でも自家製のうどんを作っている農家があったようだ。

《やがて、水車の回る音が聞こえてきました。ここは水車の動力で、付近の農家から頼まれた小麦をついて製粉し、また自分のところの分もついて、それをうどんの玉にして売っているのです。〈水車のうどん〉といわれています。》

 これは昭和十年代後半、戦時中の話である。小生が子供の頃(昭和三十年代)にはもう水車の姿はほとんど見なかったように思う。ただ、白鳥に全国的にも珍しい六車(むぐるま)という名字の家が多いのは、水車全盛時代の名残なのかもしれない、と考えたりすることはある。

 母は四姉妹の長女だった。妹のひとりが隣村の六車と名乗る家に嫁ぎ、嫁ぎ先の親戚がうどん玉を作っていたので、農閑期には手伝いに行っていた。そして、ときおり、売れ残ったうどん玉をわが家へおすそ分けだと持ってきてくれた。それは桑島のいうような手打ちの腰のある逸品ではなくて、機械で製造したスーパーでも売っているような柔らかいうどんであった。だから小生の少年時代はいわゆるさぬきうどんには無縁だったのである。

 ところが、県庁所在地の高松市にある高等学校へ通うことになってから事情は変った。さぬきうどんの本場は讃岐でもその中西部である。ほぼ中央に位置する高松市もむろんうどん圏になる。高松市と徳島市を結ぶ高徳線の、そのちょうど中間あたりになる白鳥からディーゼルカーの引っ張る国鉄の列車でおよそ一時間の通学だった。(「さぬきのソウルフード」冒頭より

by sumus2013 | 2019-07-06 11:36 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

ふるほんのほこり発売中!

f0307792_17260607.jpg


目下、善行堂にて発売中です。どうぞよろしくお願いいたします! 
取次についても善行堂までご相談ください。



f0307792_17261089.jpg


f0307792_17102895.jpg


f0307792_17102439.jpg


f0307792_17102170.jpg


f0307792_17101224.jpg


f0307792_17100510.jpg


***


f0307792_15410010.jpg

書肆よろず屋さんの企画で『ふるほんのほこり』を上梓することになりました。

筑摩書房のPR誌『ちくま』2009年1月号から2010年12月号まで24回連載した古本エッセイ「ふるほんのほこり」を収録し、さらに『coto』7号に発表した「ふるほんは宝物だ」を加えて四六判64ページにまとめました。限定500部。頒価1000円。

十年ほども前のエッセイなので、多少時代の変化を被ったところもあります(例えばブログよりもTwitterが主流になったこととか)。経年劣化です。しかし元来が古本の話ですからエッセイの内容そのものは古くなっていないと思います。

《ほこりを払う

「来年から二年間「ちくま」の表紙と文章をお願いできますか?」
 こんなメールが筑摩書房のPR誌『ちくま』の編集長・青木真次氏より届いたのは二〇〇八年七月七日だった。もちろん即座に承諾した。『ちくま』は一九九八年以来、吉田篤弘+吉田浩美のデザインでPR誌に新風を吹き込んでいた。九八、九九年の表紙をクラフトエヴィング商會「らくだこぶ書房21世紀古書目録」が飾り、以降、たむらしげる、望月通陽、フジモトマサハル、そして奈良美智と続いていたのである。「奈良美智から引き継ぐのか!」と気を引き締めたものだ。》

《久しぶりに当時の日記を見直してみて驚いた。この頃は何とまあ、めまぐるしく様々な仕事に手をつけていたことか。創元社から『書影でたどる関西の出版100』を刊行することが本決まりになり、第一回のパリ古本屋巡りを計画し(そして実行し)、衛星放送の番組「Edge2 今を、生きる」の撮影準備に取りかかっていた[56頁以下参照]。『佐野繁次郎装幀集成』を製作しつつ大阪の箱庭さんでの佐野繁次郎展のお手伝いもし、編集工房ノアの企画で還暦本の原稿も書いていた(刊行されず)。東京美術倶楽部のアートフェアーでの個展も決まっていた。同時に『spin』を作っていたわけだから、今では信じられないほど働いている。五十三歳だった。

 二〇〇九年から一〇年にわたる二年間の連載はつつがなく終了した。絵はまとめて入稿していたし、テキストが遅れることもなかった。神戸のギャラリー島田と渋谷のウィリアムモリスで原画展を開催し、渋谷では青木さんとトークショーもやらせてもらった。しかし、これを本にするという話はおくびにも出なかった。一部の古書好きの人たちにはおだてられ、連載が終って『ちくま』が面白くなくなったとまで言ってくれる人もいたのだけれど、一般読者の注意は惹かなかったのだろう。今、時をおいて読み返してみると、たしかにかなりマニアックな内容ではある。そんなことで「ふるほんのほこり」はお蔵入り、パソコンの中で文字通り(いや比喩的に)ほこりをかぶっていた。

「『ちくま』の連載をまとめましょう!」

 こう提案してくれたのは書肆よろず屋の岡田将樹氏。連載終了から八年余りが経っていた。これ以上の有り難い話はない。やおらほこりを払って原稿に手を入れ、取り合わせる写真を用意した。この間に大切な人たちが何人も亡くなったことを再確認して愕然とした。それだけの時間が流れたのである。ただ、内容は古本の話だけに案外と古くなっていないようだ。そっと胸をなでおろしている。》

署名本のお求めは古書善行堂へ、よろしくお願いいたします。

古書善行堂

by sumus2013 | 2019-07-02 19:47 | 文筆=林哲夫 | Comments(4)

私のワンコイン文庫

f0307792_19322714.jpg


入谷コピー文庫篇『私のワンコイン文庫』(2019年7月26日)が届く。通巻118号。490円以下で買うことのできる文庫本を一冊紹介するという企画である。小生も書かせてもらった。

いつも古本文庫しか買ってないので新刊でいくらするのかが分からない。値段の感覚はおそらく三、四十年前のままである。そういう意味で選書に苦しんだ。

で、寄稿者のみなさんの選書は以下の通り。一人で二冊、三冊の方もおられるし、昔の値段のままで選んだ方も・・・(なんだ、悩んで損した)。新潮文庫がなんとか安価なタイトルを残している感じ。古典ばかりのはずの岩波文庫でも新刊はけっこう高くなっている。数字は現行の新品価格(アマゾンによる)。数字のないのは古書価のみ。『日本女地図』がダントツ。

子規歌集 岩波文庫 457
現代俳句歳時記(秋) ハルキ文庫 497
太宰治『ヴィヨンの妻』新潮文庫 400
更級日記 岩波文庫 460
須賀敦子『トリエステの坂道』新潮文庫 562
川上弘美『なんとなくな日々』新潮文庫 432
中村文則『掏摸』河出文庫 508
吉本ばなな『キッチン』角川文庫 432
開高健『眼のある花々』中公文庫 
井上靖『詩集北国』新潮文庫
中河与一『天の夕顔』新潮文庫
殿山泰司『日本女地図』角川文庫
芥川龍之介『蜘蛛の糸・杜子春』新潮文庫 346


更級日記 岩波文庫 黄18-1 定価:本体460円
林 哲夫(画家)

 新刊で文庫本を買うということがほとんどない。最後に買ったのはいつだったろうか?

 はるか昔のことのように思われる。ただし古本では毎日のように買っている。490円以下の文庫ならラクショー、と安易に考えて本棚の前に立った。ところが、いざ「これにしよう」とググッてみると、現在の定価は500円どころか700円、800円にもなっている。これもダメ、それもダメ、あれもダメ……う〜ん、困った。

 手許にある『ちくま文庫 ちくま学芸文庫 総目録2019』をざっとチェックしてみて驚いた。なんと、500円未満のタイトルは斎藤孝『質問力』490円と夏目漱石『こころ』380円の2点のみ。昔は文庫といえば部数が多いものと決まっていた。だから安くできた。ところが今では文庫においても多品種少量生産の時代である。500円をクリアできるタイトルはウルトラ・ロングセラーか、よほどの売れ線でなければならないようだ。

 そんなことで迷った末、岩波文庫の古典から『更級日記』(西下経一校注)を選んでみた。架蔵本は1988年発行の51刷、定価200円(税なし!)。現在は本体460円(+税)である。高等学校古典Bの主要作品なので知らない人もいないだろうが、著者は菅原孝標の娘、菅原家は天神さんこと菅原道真の子孫で代々大学頭や文章博士を輩出した学問一家である。その少女時代から晩年にいたる出来事を断片的に追懐して記したもの。藤原定家がこの日記を愛して何冊も写本を作っており、自筆本が御物として伝わっている。

 父の孝標は寛仁元年(1017)に上総介(現在の千葉県の国司の次官)となり都を離れたため9歳から12歳までを上総で過ごした。関東の果ての果て(あづま路の道のはてよりも、なほ奥つかた)である。多感な文学少女には耐えがたいド田舎だった。「京にとくあげ給ひて、物語のおほく候なる、あるかぎり見せ給へ」と薬師仏に願うほど。母や姉から『源氏物語』の断片を聞きかじって、どうしても全編を読みたいと思い詰める。

[下略]


『ふるほんのほこり』善行堂に納品しました。部数が少ないのでお早目にどうぞよろしくお願いいたします。


by sumus2013 | 2019-06-28 20:11 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

筆は一本、箸は二本

f0307792_20072710.jpg

『入谷コピー文庫 大滝秀治人間劇場シリーズ第4回 お世話になりました』(堀内家内工業、2019年5月30日)にエッセイ「筆は一本、箸は二本」を書かせてもらった。保光敏将、山川直人、武藤良子各氏も執筆しており絵を描く人のエッセイは面白い、とあらためて再認識した。いつものことながら少部数コピーだけですませるのはもったいない冊子である。



by sumus2013 | 2019-05-24 20:14 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

アピエ訪問

f0307792_17432400.jpg

京都大原のアピエさんを訪ねた。知人の彫刻家が近くにアトリエを構えている。そこを見せてもらえるというので、この機会にと足をのばした。と言っても車なら数分の距離。アピエさんでコーヒーとケーキ(本日のスペシャルは萩原朔太郎の鉱石ケーキでした!)をいただく。民家をリニューアルして、すっきりと渋く、それでいて艶やかに仕上げられた店舗にまず感心する。小物も過不足なく生かされている。

アピエのバックナンバーも揃っているし、自由に読めるライブラリーの本たちも店主の好みを写し出しているようで気持ちがいい。庭や土蔵も手入れされてうまく利用しておられる

f0307792_17434400.jpg

f0307792_17435413.jpg

f0307792_17440112.jpg
f0307792_17440924.jpg
f0307792_17441536.jpg

もし近所だったら、繰り返し訪れたい場所である。

APIED アピエ

by sumus2013 | 2019-04-28 19:54 | 文筆=林哲夫 | Comments(2)

大和通信111号

f0307792_17270414.jpg

『大和通信』第111号(海坊主社、2019年3月20日)。「父の仕事場」掲載。編集人の中尾務さんに昨年末の個展のときに配布した「父の仕事場」のペーパーをお送りしたところ、転載してくださることになったもの。『大和通信』に書かせて(載せて)もらえるというのは、たいへんうれしい。

中尾さんが「天牛書店均一台前のうらたじゅん」という追悼文を寄せておられる。これがいい。

大月健の死の前にも、うらたじゅん不調が耳に入ってきた。複数回だったと思う。たまたまかけていた〈仏性鬼心〉と揮毫した小島輝正の軸の写真を撮影、官製ハガキに貼りつけて〈鬼の心でガンをやっつけてください〉と書き送ったことがある。
 返信には、〈ちょっと極楽まで下見へ行ってきました〉〈川崎さん元気そうでした〉と記され、亡くなった川崎彰彦を主人公とする四コマ漫画が、五点。
 五点は、いずれもハンチングをかぶった川崎彰彦が「極楽ってええで」ないしは「極楽はええでー」と語るところからはじまる。うち一点は、「ちゃんと大和通信も届くし」とつづけられ、そのあと「ママさん呑み代のツケこれで」と『大和通信』を女性にわたしてコップ酒を手にする川崎彰彦が描かれていた。
 充分笑わせてもらったが、すごいな、うらたじゅんはという思いもあった。》

《寒い日だった。天牛を出ようとすると、均一台のところに乳母車にお孫さんをのせたうらたじゅんがいた。ちかくに娘さんの勤め先があって携帯に授乳の連絡が入ると、勤め先のそばの公園に乳母車をおしていくのだという。「ほな」「また」と別れ、矢野書房に入ろうとして振りかえると、うらたじゅんは、古書を片手にかざして赤ん坊をあやしているふうだった。》

うらたさんの姿が目に浮かぶ。小生がうらたさんと最後にお会いしたのは、去年の暑い(熱いといっていいくらいの)日だった。



by sumus2013 | 2019-03-11 19:51 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

マチマチグラフ

f0307792_19584454.jpg

マチマチ書店在庫目録』第貳号(マチマチ書店、平成三十一年三月一日)。第一号が昨年六月だった。新しい古書店の熱気を感じたものだが、第二号も「主に雑誌に見る 戦中戦後 暮らしと印刷物」というテーマでグラフィックな雑誌をズラリと取り揃え、元気なところを見せてくれている。

実は、一月に、特集のテーマで寄稿を依頼されていた。もちろん、それなら『花森安治装釘集成』でしょう、ということで「花森安治と暮らしの哲学〜『花森安治装釘集成』から見えてくるもの」と題して少々宣伝文、および花森がどうして「暮し」や「生活」にこだわる雑誌を始めたのか、という理由について個人的な意見を書かせてもらった。

f0307792_19585515.jpg
f0307792_19584024.jpg
『それいゆ』のページ


f0307792_19582851.jpg
『暮しの手帖』関連書もズラリ出品されている


他に寄稿者はハコバカ氏と土屋貴司氏(東京くりから堂)。目録に三本のエッセイ(計4ページ)というのはできそうでできない編集だと思う(見開き二ページ堂々と使っているのはどなた?)。

目玉というか、これ見てみたい、と思う雑誌は『ホーム・ライフ』43冊(大阪毎日新聞社、昭和十一〜十五年、18冊欠、10万円)である。『ホーム・ライフ』たしか一冊か二冊は持っているはずだが、なかなかのクオリティなのである。これだけまとめて眺めたら面白いだろうなあ・・・戦争へ向かう日本の様子がよ〜く分かるはず。

by sumus2013 | 2019-03-08 20:30 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

生活考察 vol.06

f0307792_16292053.jpg

辻本力氏編集の『生活考察』が四年半ぶりに刊行された。第六号。発行所は合同会社タバブックス、二〇一八年一一月二七日。

出版と編集 タバブックス

生活考察 vol.06

巻頭は、春日武彦✖️穂村弘✖️海猫沢めろんによる鼎談「僕らは大人になれたのか? これからの"成熟"考」。岡崎武志「油絵を描くと生活は」は絵を描くことについての情熱を語っている(先日の個展までの経緯も分かる)。小生は「好きなことだけして暮らしたい第六回 その日、音楽は死んだ」と題して身辺を取り巻く最近の音楽状況について、青春時代の音楽生活について書いてみた。

全体にかなり充実した仕上がりになっている。これは売れるかも、と思ったら、さきほど辻本氏より次のようなメールが届いた。

評判も上々で、昨日の文学フリマでは、60冊持って行ったものが終了2時間以上前に完売しました。

大変結構なことです。みなさまもぜひご一読を。

生活考察 vol.05

by sumus2013 | 2018-11-26 16:48 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)

詩誌「新年」への想い 第6号

f0307792_21212509.jpg

『詩誌「新年」への想い』第六号(市島三千雄を語り継ぐ会=新潟市東区桃山町2−127斎藤方、二〇一八年一一月二〇日、500円)が出来上がった。小生も「荒海や」という文章を書かせてもらっている。今年の四月に自家用車で新潟まで往復した話を、芭蕉の『おくのほそ道』にからめて書いてみた。

目次
・『両岸の散歩者』オートイユの思い出/アポリネール 冨岡郁子訳
市島三千雄に嫉妬する。 齋藤正行
・市島三千雄と「シュールレアリスム」 さとうまさお
・小樽への旅 鈴木良一
・無い図市島三千雄 齋藤健一
・進むを知り 齋藤健一

とくに「市島三千雄と「シュールレアリスム」」を興味深く読ませてもらった。ご希望の方は上記へ直接ご連絡いただきたい。

『定本市島三千雄詩集』(市島三千雄を語り継ぐ会)


by sumus2013 | 2018-10-06 21:34 | 文筆=林哲夫 | Comments(0)