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歌集しがらみ

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中村憲吉『歌集しがらみ』(岩波書店、大正十三年七月十五日、表紙画=平福百穂)。昨日、午睡出店にて。第三歌集。大正十一年に斎藤茂吉や島木赤彦らの督促で歌集を編み始めた。しかし当時、大阪毎日新聞の経済部記者だったためその仕事は遅々として進まなかった。長文の「編輯雑記」が巻末に付されている。

《すると昨年の春[大正十二年]ごろから再び赤彦君の頻繁な督励に会ひだした。それで出版所もいよいよ岩波書店にきめて、予は再び『しがらみ』の編輯を進めることにした。八月には大部分の原稿の浄写も出来て、恰度これから予に順番が廻つてくる、十日の交代夏季休暇のうちには、一切の原稿を整理して岩波書店へ渡さうと思つた時である。その時に昨年の大震災が突発した。》(p239-240)

新聞社も頗る繁忙になり、歌集の出版などはすっ飛んでしまった。

《然るに年末ごろであつたか、突然岩波氏から元気のよい『しがらみ』刊行の督促が来た。そこで予は震災直後で最も重大な第一年末を、経済界が無事に経過したのを見た後、本年になつてから三度『しがらみ』の残部の編輯を続けることにした。漸く原稿を東京に送つたのは二月の末頃である。しかしその後印刷所に原稿が廻つてから其処での手違ひや、校正の出るころの予の旅行または事故から、それに新にこの編輯後記の追加などで、この歌集が世に出る日はいよいよ延びて遂に初夏の候となつた。》(p240-241)

震災からの立ち直りは驚くほど早かったのだ。他に、アララギ同人の小川政治が最初の原稿浄書をした、島木赤彦が出版社へ渡す前に通読し、出版の全般にわたって面倒を見てくれた、高田浪吉の尽力があった(高田は島木の弟子)、などの謝辞が連ねてあり、出版の経緯がよくわかるのは有り難い。

例によって、書物に関する歌を探したのだが、前半は郷里の広島県三次での生活を詠んだ作品ばかり、後半は京都を含む各地での詠草だが、ブッキッシュなテーマは見当たらない。一首だけ、「梅雨ぐもり」連作五首のうちに次の作がある。改行はママ。

 ひさしく拭布[ふきん]をかけぬ本棚のうるしがうへに
 黴吹きにけり

他には加茂川を詠んでいるので引いておく。

 加茂川の橋したにして光りゐる朝波を見れば
 我れはうれしき

 春めきし加茂川のおと朝がすみおほにかなし
 く旅に遭[あ]ふかも

 加茂川の音春めきぬこの宿に戸をとづれども
 耳ちかきおと

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賀茂川の水面


by sumus2013 | 2022-08-22 21:51 | 古書日録 | Comments(0)
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