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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


政田岑生詩集

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『政田岑生詩集』(書肆季節社、1995年6月29日発行)、編集=鈴木漠・河野すみれ、制作=湯川書房。カバーのジャクソン・ポロックのような絵具の飛沫模様は湯川さん自身が制作したもの。現物を御幸町通の事務所で見せてもらったことを覚えている。


   季節
      ーーボクのいる舞台の構図ーー


透明な 砂丘の 上に
凍った
思惟と 唯物の 自画像ーー
未来のない
生存者の 惨憺な 歴史
と 物語を
どこかに忘れた

積木細工の様に 重ねた
狼狽と
崩れ落る イリュージョンの
群の
潜在意識と いう
壁面に
白い悲哀の構図を 描く
軌道を失った 生命の岐路
錆びた エンジンの脚音
それにも にた 音楽を奏でながら
嬰児のように あどけなく
匍匐するーー

無言詩の抽象の
一節を
褐色な血の線で色どりながら
老詩人は
たんたんと敗北の歌を
唄っている

無形な哲学が私語している
蒼穹の根底で
何ものかを摑み得ようと
しているのだ
墨汁の染みこんだ指先はふるえ
ウルトラな言葉を
拾い集めながら
それでもなお
うづく私の季節は
灰色な斜面を放浪している

   [初出「季節」創刊号 1953.10]


巻末の「政田岑生年誌」によれば以下の通り。

《昭和二十八年(1953年)十八歳
 一〇月一五日、詩同人誌『季節』創刊。
 発行所=広島県阿佐郡祇園町大字南下安二九七番地政田岑生方、編集=季節同人、発行人=松岡繁、七名一〇作品二四頁。鉄筆ガリ版刷りにより非売品として発行された。政田岑生「季節」一篇を発表。他にメンバーは、藤井薫、木下幸雄、安原伸江、松岡繁、石本螢子、大室光雄。浅黄の表紙に書かれた題字〈季節〉の文字は、ロイヤルブルーの水彩絵の具を用いて一冊一冊丹念に書かれた手書きで、四〇余年を経た今も色鮮やか。二号以下は印刷されていた。》(p253)



by sumus2013 | 2022-08-09 19:52 | 古書日録 | Comments(0)
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