人気ブログランキング | 話題のタグを見る


銀座細見

銀座細見_f0307792_20335794.jpg


いつもの店のいつもの店頭均一台をざっと見て二冊ほど抜き出した。つづいて店内の棚を物色しているとき、PCに向かっていた店主がにわかに立ち上がって来て、小さく叫んだ。
「あ〜、降ってきたンやないか!」
「え?」と思って振り返ると、通りを行く人たちは肘傘で小走りに過ぎて行く。店主は取り込むものでもあったのか、あわて気味に外へ出て行った。

バイトの女性に支払いを済ませ、受け取った古本三冊はリュックに収める。外へ出てみると、細い雨が降ってはいるものの、空は明るい。文庫と新書ばかりで埋まっている軒下の均一棚(たまにしかチェックしないのだが)をしばらく眺めていれば止むだろうと思った。案の定、五分もしないうちに雨の勢いは目に見えて弱くなった。

その五分間に中公文庫を四冊発見。なかに安藤更生『銀座細見』(中公文庫、一九九二年再版、カバー画=川上澄生)があってラッキー。これはもちろん『喫茶店の時代』に何度も引用しているのだが、内容は間違いなく面白く、何冊持っていてもいい。古書価は文庫としてはかなり付いている(昭和六年刊の元本はさらに)。にわか雨よ、ありがとう。

パラリとめくったところに銀座の古本についての記述があったので引用しておく。「夜店」の繁盛ぶりを述べたくだり。

《夜店といえば、どこのも何となくうらぶれた、淋しい思いを起こさせるものだが、銀座の夜店には全くそういうところがない。明るくて快活で、手ごろで、そしてよい品物が安く買える。店々にネオンサインが点り、大きなゼネラルモオタアスのイリュミナシオンが一斉に輝き初める夕方の六時ごろから、そこには思い思いの店が開かれる。京橋の橋詰から、七丁目のゑり治[じ]の前まで、そこにはあらゆる種類の店がある。次の友人吉田謙吉君の調査になる某日の銀座夜店の表を掲げよう。
 見たまえ、諸君! 何と、これは一つの立派なデパートではありませんか。君がもし古本蒐集家なら、ここにはセエヌの quai にも劣らぬ程に古本屋が並んでいます。松坂屋前の山崎程明治に関する文献を蒐めている本屋を私は東京に聞きません。私は彼から「若菜集」「一葉集」「夏草」などの初版を買ったことがあります。といえば彼がどの程度の本屋であるかは御わかりでしょう。彼の温順[おとな]しやかな商売振り、彼の古書に対する愛好心と知識、彼は私の尊敬している本屋の一人です。同じく松坂屋の前に出ている水口、水口といってわからなくても、太った菊石[あばた]のある和本屋といえば知っている人が多いでしょう。彼のところにも、めったに出ないような珍本がある事があります。私の友人岡康雄君は、彼の店から正徳版の『秋の夜の長物語』を買ったことがありました。》(p174-175)

文中に言う「吉田謙吉君の調査になる某日の銀座夜店の表」を指でなぞりながら数えると「古本」18、「古雑誌」2 の夜店が銀座通りの両側に出ている。セーヌ河のブキニストとはちょっと比べられないが(両岸に合わせて百軒以上あるはず)、かなりの数なのは間違いない。一度のぞいてみたかった。


by sumus2013 | 2022-07-30 20:48 | 古書日録 | Comments(0)
<< 書肆五車楼 文字禍 >>