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珈琲リオ クラシック![]() あまつち音楽祭のマルシェに出店している書棚比良坂の棚から森岡督行『荒野の古本屋』(小学館文庫、二〇二一年一月九日)を求める。店主の母上の本だったそうで、小生より少しだけ年長と聞いた。そういう時代になったのだと納得する。 まだ全部読んでいないが、ハラリとめくったところに「リオ」の文字が見えてビックリ。松野陽一『書影手帖』に新刊書店・春興堂は《今「リオ」という喫茶店になっている場所にあった》とあったのを前日に引用したばかりだったからだ。森岡氏も神保町で本を買った後には喫茶店に入ってゆっくりページをめくるのだそうだ。 《この場合、カフェという雰囲気の店よりも喫茶店という雰囲気の店のほうが性にあうとだんだんわかってきた。どういうわけか、体勢を立てなおしつつ、ゆっくりものを考える気分になれる。いまではもうなくなったけれど、小宮山書店の角を入り、鶴谷洋服店の隣にあった「珈琲リオ」をちょくちょく利用した。 神保町といえば、「ミロンガ」「ラドリオ」「エリカ」(二〇一九年三月閉店)が喫茶店の代表かもしれないが、「珈琲リオ」は、同年代のスタッフがいて、何度か通ううちに挨拶を交わす間柄になっていた。珈琲一杯で長時間ねばっても、本当のところはどうかわからないが、とりあえず、こちらは気まずい思いをせずに済んだ。》(「予算は二〇〇〇円」p30) さらに「珈琲リオ」という独立した表題もある。女性スタッフとの会話が中心になっているが、ここでは喫茶店の特徴を述べたくだりだけ抜いておく。 《「珈琲リオ」はいつもクラシックがかかっていた。》 《この喫茶店は、なにせ小宮山書店の角をまがった鶴谷洋服店の隣。座ったテーブルが窓側だったので、「本の街」と印字された手提げ袋を持って歩く人の姿が目に入ってきた。彼らは「そんなに買って読んでどうするの」と訊かれたら何と答えるのだろうか。》 《「珈琲リオ」の珈琲には、ミルクが比較的多めについてきた。そのすべてをカップに注ぎ、マーブル模様が旋回するのを眺めた。手提げ袋から本を取り出し、それに収められた『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を適当なページから読みはじめた。久しぶりに直面した現実を払い落とすように。》(p36) さらにリオのスタッフと神保町の靖国通りの歩道で遭遇し半蔵門駅までいっしょに歩くという甘酸っぱいシチュエーションもこの後に登場する。 「中野クラシック」という一文もある。 《昭和二〇年開店の名曲喫茶で、中野駅北口を出て、アーケード街のサンモールを北上し、生地屋のかどを曲がったビルの谷間に潜んでいた。残念ながら二〇〇五年に閉店してしまい、いまはもうない。おもての看板には「音楽室と2F珈琲室」と記され、入口のドアは歪んでいた。店内は複数のアンティークランプがちりばめられていたが、全体的に薄暗い。通路も狭い。奥の壁のほうからは、ラッパ型のスピーカーが五、六本延びていた。二つ三つある柱時計の針はどれも止まっていたし、メトロノームの針が左右に動くこともなかった。山積みされた古めかしいLPレコードと、真空管アンプから延びるガラスチューブの群れが異様な空気を増長させていた。 メニューには珈琲と紅茶とジュースのみ。代金をはらうとプラスチックの食券を渡された。カウンターの上には黒板があり、聞きたい曲をチョークで書いてリクエストする。LPレコード特有のブツブツというノイズ混じりの音楽が響く。》(p40-42) 著者は夏目漱石『坑夫』(新潮文庫)にまつわる芸術論を、村上春樹『海辺のカフカ』のなかに見い出して、シューベルトのニ長調ソナタを聴きながらもう一度『坑夫』を読み直したくなる。クラシックへ向かう他ない。 《その日は、リクエスト用の黒板に記入された楽曲がひととおりかかってしまっていて、私が「シューベルトのニ長調ソナタ」と記入すれば、店内に鳴り響く状況になっていた。はたしてこのLPレコードの用意はあるだろうか。珈琲を注文しながら、お店の人に尋ねると、「はい」とだけ小さい声でいった。「クラシック」には、何種類のレコードがストックされているのだろう。あたりまえのようにLPレコードを取り出し、ターンテーブルの上に載せると、いつものブツブツというノイズとともにピアノの音が奏でられた。》(p47) ソナタを聴きながら『坑夫』を読めば昔はちっとも響かなかった文章がとつぜん意味をもちはじめる、そんなことを期待した。 《しかし、しばらく耳を澄ませ聴いてみたものの、こころを空っぽにして読んでみたものの、そういう現象は立ち現れなかった。どうにもこうにも、やはり先に読み進められない。》(p48) 《珈琲はとうにさめていた。「クラシック」の歪んでいるドアを開いて外に出ると、吉野家の看板が照っているのが見えた。オレンジ色の輝きのなかに映える牛丼の価格はあまりに現実的だった。吉野家の看板が現実であるのなら、「クラシック」の扉の奥は、いかにも虚構である。》(p48) 名曲喫茶中野「クラシック」店主 画家美作七朗 生誕110年記念作品展
by sumus2013
| 2022-07-18 11:25
| 喫茶店の時代
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