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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


古本マニア採集帖

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カバーと本体



南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』(皓星社、二〇二一年一二月一五日、装画・カット=武藤良子、装丁=横須賀拓)読了。こちらも「日本の古本屋メールマガジン」で目を通していたが、やはり紙の本になると読み方が違ってくるようだ。新たに取材した人たちもいるので合計36人の古本マニアに話を聞いている。『蒐める人』(皓星社)とともに古本史に残る好著であろう。

本書の「退屈男さん」の章で引用されている退屈男さんによる南陀楼氏の最初の単行本『ナンダロウアヤシゲな日々 本の海で溺れて』(無明舎出版)についての評言がズバリ的を得ている。

《『本の海で溺れて』とあるが、ただひとり溺れるだけでない。南陀楼さんはその海の泳ぎ方がじつによいのだ。そして、おなじように本の海を泳いでいるひとたちを見つけて、接し、また外にそれを伝えていく。そのことによって、読者は、本の海のまだ知らぬ領域まで泳ぎすすむことができる。》(p259)

これはそのまま本書の感想だと言ってもいいだろう。また、巻末に置かれる「おわりに 私が古本マニアだった頃」が自らの半生を振り返る実にいい文章だ。本書では「濃い」古本マニアを集めたいとは最初から思わなかったそうだ。

《それよりは、その人の生活のなかに古本と古本屋(あるいは本と本屋)がどういう位置を占めているかを聞いてみたかったのです。そのため取材時には、その人の記憶にある最初の一冊から読書歴と本屋歴をたどっていきました。そういう人たちの話を集めることによって、「本好きの生活史」のようなものが描けないかと漠然と考えたのです。》(p261)

そうそう、この最初の一冊と読書歴というのがどの人を読んでいても興味を惹かれる部分である。雑誌や子供の本のタイトルから、その人の世代がはっきりと見えてくるし、個人的に面識のある人の場合は(ただお会いしただけという方も含め十一人に面識があります)そんな本だったの、という意外性も感じる。

南陀楼氏自身は一箱古本市を始めたことで「古本マニアの呪縛」から逃れ《本を媒介としたコミュニケーションの楽しさ》を追い求めるようになったと言うのである。小生も、南陀楼氏が日本中を自由に駆け回る姿を頼もしく、多少心配(生活は大丈夫かというような、おせっかいな心配)をしつつ、感じていたことを思い出す。そして「おわりに」の最後の文章がすばらしい。

《今年に入って、『雲遊天下』編集長の五十嵐洋之さん、作家の小沢信男さん、ブックデザイナーの平野甲賀さんと桂川潤さんの訃報に接しました。多くのことを教えていただいたことを感謝します。
 そして、昨年亡くなった母へ。実家の書庫にある本の場所を電話で正確に指示するので、「恐ろしい子に育った」とぼやいていましたね。病院に見舞に行ったときには、「あんた、まだナンダロウやっとるかね」とつぶやいていました。はい、いまでも、なんとかナンダロウやってますよ。
 古本マニアではなくなったけれど、これからも本と一緒に生きていくのだと思います。私にはそれ以外の生きかたはできないでしょう。》(268)

コロナになる前の話だが、『本のリストの本』を作るということになって共著者全員が大阪で打合せをした。そのとき久しぶりに会う南陀楼氏にと思って、その少し前に見つけていたガリ版の趣味人雑誌を持参したら、目の色変えてガッツリ食いついてきた。脱マニア宣言など思いも寄らなかったけどなあ。

自称マニアじゃない人が書いた本です。マニアじゃなくても楽しめます。

by sumus2013 | 2021-11-26 17:03 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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