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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


南瓜の花

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善行堂でつい先だって「こんなのあるけど……虫喰いだらけや」と見せられた。水谷川忠麿『南瓜の花』(草木屋出版部、昭和十七年一月二十日)。見事な食いっぷりだ。草木屋といえば山崎斌である。作家で草木染めの研究家。小生が山崎を知ったのは『sumus』9(二〇〇二年五月三一日)に築添正生さんが「雑誌『月明』のこと」という原稿を寄せてくださったからである。その結びに次のように書かれている。

《昭和十三年から二十七年(?)にかけて、戦中、戦後という雑誌を出すには最も困難だったろう時代に、『月明』(山崎は『月明』以外にも並行して昭和十四年から一年間『季節』という雑誌を出したり、『月明文庫』というシリーズや限定本の出版などもしている)を出し続けた山崎斌の情熱とエネルギーは感心する他ない。》(p30)

山崎斌 Yamazaki AKIRA 作家 / 草木染作家

文中《限定本の出版などもしている》に相当するのがこの『南瓜の花』である(限定三百部)。短い随筆と短歌が主な内容である。水谷川忠麿は以下のような人物。

《水谷川 忠麿(みやがわ ただまろ、1902年〈明治35年〉8月27日 - 1961年〈昭和36年〉5月20日[1])は、日本の男爵、貴族院議員。旧姓、近衛。後陽成天皇の男系十二世子孫である。//公爵近衛篤麿の四男として生まれた。兄に内閣総理大臣の近衛文麿、指揮者の近衛秀麿、ホルン奏者の近衛直麿がいる。》(ウィキ「水谷川忠麿」)

「巻末に」によれば、本書は雑誌『月明』に連載したものとのことで、山崎に勧められ、茶室と擇草舎(華道御門流の稽古場)とを得た自祝の気持ちと四十歳になった記念の意味で刊行に踏切ったそうだ。

《十年前、三十歳の頃は、まだ畫に熱心で、日本のセザンヌにることを夢見たりしてゐた。しかし自分の才能にそろ〜〜不安を抱きはじめた頃、丁度満洲事變、五・一五、二・二六事件が頻發、それに刺戟されて畫筆など執つてゐられぬ氣持になり、遂に轉じて今日の樣な俗事に多忙な生活をする樣になつた。思へば十年の間に大きな變りやうをしたものである。》(p112)

著者は『陽明文庫図録』などの編者として名前が出ており(陽明文庫は近衛文麿が設立した近衛家伝来の古文書などを収蔵する施設)、『紫山水谷川忠麿遺稿』(昭和四十六年)があるようだが、それよりも本書の方がぐっと貴重である。ただし保存が良ければ、の話だが。


by sumus2013 | 2021-11-23 19:56 | 古書日録 | Comments(0)
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