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コケのすきまぐらし

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『月刊たくさんのふしぎ』第439号「コケのすきまぐらし」田中美穂・文、平澤朋子・絵、福音館書店、二〇二一年一〇月一日。

《体のつくりが単純で「原始的」なコケは、はるか昔、太古の地球で最初に水中から陸にあがった植物のひとつだと考えられています。

 多くの植物は、「より強く」「より速く」「より大きく」なろうとすることで進化してきました。身のまわりの草や樹木の場合なら、根から水分や養分を吸収し、それらを体の中に長く保たせる組織を発達させています。それなのにコケときたら、最初に陸にあがった何億年も前から、それほど大きく変わることなく、それぞれの環境に適した体へと、地道に、しかし驚くほど多様に進化してきました。がんこなのか、能天気なのか、したたかなのか、コケはほんとうに不思議な植物です。》(p34-35)

「変らないから新しい」そんなキャッチコピーを思い出させるコケの存在ではないか。

昔、苔寺から歩いて十五分くらいのところに住んでいた。田中美穂さんが拙宅に見えたとき、苔寺までの裏道を案内したことを思い出す。その頃、苔寺は拝観できなくなっており(写経の申込をする形になっていたと思う)、門前まで行って引き返してきたのだが、当然ながら、苔が生えているのはお寺の境内だけではなく、山際のちょっとした林のようになっているその辺りにはいたるところに棲息しているわけだから、どうしても入門しなければならないということはなく、田中さんは道々立ち止まっていかにも楽しそうに観察していた。

田中美穂『苔とあるく』

本書からもそんな観察や発見の喜びが伝わってくる好著である。お寺の銅葺き屋根から雨垂れが落ちる場所だけに生えるホンモンジゴケなんて、ビックリしたなもー。



by sumus2013 | 2021-09-09 20:10 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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