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林哲夫の文画な日々2
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同僚 生田耕作さんのこと

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編集工房ノアより『海鳴り 33』(二〇二一年四月一日)が届く。まずはともあれ山田稔「同僚ーー生田耕作さんのこと」を読む。

何年か前、真治さん、能邨さん、扉野君らといっしょに山田さんを囲む会に参加させてもらったとき、生田耕作の話が出た。それはこの原稿にも書かれている『夜の果ての旅』事件についてであった。簡単に言うと、中央公論の「世界の文学」の一冊としてセリーヌ『夜の果ての旅』(一九六四年)を生田耕作が翻訳することになったときのちょっとした行き違い。

《これは長大かつきわめて難解な小説で、生田ひとりの手に余った。全集なので締切りは延ばせない。そこで彼は私の友人でシュールレアリスムの研究者である大槻鉄男に協力をもとめた。彼はすこし前に三年間のフランス留学から帰国したところで当地の事情にも詳しかった。またヌーボーの会の会員でもあり、生田とは親しく、共訳者として最適と思えた。大槻は日仏学館のフランス人講師に難解な俗語について質問するなど協力を惜しまなかった。》(p37)

生田耕作の一番苦手なところを大槻が補ったわけである。ところが、ある晩遅く、大槻は生田をともなって山田宅を訪ねた。生田は大槻の訳文が気に入らず、印税折半の約束を守らない、そういう話だった。大槻は約束は守るべきだと訴えた。

《生田耕作は訳文に凝る方だが、大槻はむしろ直訳風を好む。その違いを知らずに大槻を選んだのなら、それは生田の方がわるいだろう。印税は折半という最初の約束は、訳文の出来如何にかかわらず守られるべきだ。ーーこう私見をのべた。これ以外の裁定はないように思った。生田さんがどこまで納得したか。みな疲れ果てて黙りこみ、二人が引き揚げていったのは午前三時ちかかった。》(p38)

『夜の果ての旅』は共訳として刊行され、その後、中公文庫に入る際に、生田が全面改訳して表題も『夜の果てへの旅』と改め個人訳とした。山田さん、このときは、ほんとうに困ったような話ぶりだった。

小生なども「世界の文学」で『夜の果ての旅』として読んだ口なのだが、とにかくすごい作品だと感じた。山田さんは難解と書いておられるが、後年、ペーパーバックで読み直してみると、セリーヌの文章の上手いのに驚いた。フランス人は概して難解をよしとする傾向があるにもかかわらず、セリーヌは、たとえばスタンダールに比べられるくらい上手いなあ、と貧しいフランス語学力で思ったものだ。ただ、長大な作品であることは間違いない。

他に、生田を一躍有名にしたバイロス事件にも言及されている。それによって生田が京大を辞職するとき、フランス語研究室で持たれた会合の様子なども、さすが山田さんらしく臨場感をもって回想されている。裏側の騒動がどんな性質のものだったか、わずかなりとものぞいたような気になった。

目下、京都新聞のK記者が生田耕作の取材を続けているようで(連載は一月から始まっている)、山田さんへのインタビューも二時間にわたるものだったことが述べられている。生田歿後間もないころ、ある古書店主と、誰が生田耕作伝を書くんだろうね、誰が書いても大変だろうな、きっと、などと盛り上がった記憶がある。歿後二十七年にしてようやくその気運が高まってきたわけである。いずれにしろ中途半端なものは読みたくない。執念の伝記を期待したいものだ。

同僚 生田耕作さんのこと_f0307792_20222261.jpg

かつてアスタルテ書房で求めた
サンドラール『世界の果てまで連れてって』福武文庫,1988
訳者署名入り


当ブログの関連記事を二件だけリンクしておく。鈴木創士氏や松本完治氏はもちろん、二件目にコメントをくださっている「たるや」さんはどうしても取材すべき証人の一人だろう。そうそう、戸田勝久さんも。

『るさんちまん RESSENTIMENT』創刊号

緩瀬寛 誰?


by sumus2013 | 2021-03-22 20:53 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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