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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


どんぐり

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オレンジ色の寺田寅彦+中谷宇吉郎『どんぐり』(灯光舎、二〇二一年三月十日、装幀=野田知浩)と黒い『16日間の日記、29日間の日記』(だぶんだぶん倶楽部、2020年12月1日)。いいコントラストだ。

<灯光舎 本のともしび> 第1弾
どんぐり 寺田寅彦/中谷宇吉郎 著 古書善行堂店主・山本善行撰

『どんぐり』はシンプルだが、細かいところまで工夫の効いたデザインになっていて、ひさびさに感心する本造りである。善行堂が版画荘文庫を装幀サンプルとして提示したと聞いたけれど、それがうまく土台となって新たに生かされている。

内容は、言うまでもない。名作。「どんぐり」は病妻と幼い子を持ち出して、ちょっとあざというくらいのうまさ。明治三十八年四月、漱石の「猫」が連載中の『ホトトギス』に発表されたそうだ。

「どんぐり」と中谷宇吉郎「『団栗』のことなど」の間に、もう一篇、寅彦の「コーヒー哲学序説」が挟まれている。これがなかなかニクイ配置。「コーヒー哲学序説」は『喫茶店の時代』執筆時にかなり参考にさせてもらった。ミルク・コーヒーのところは引用もしているが、「どんぐり」とはまた別種のうまさを感じさせる随筆のお手本であろう。

中谷宇吉郎の解説は「どんぐり」と重複する部分もありながら、中谷でなければ知り得ない寺田家の様子などが述べられており、「どんぐり」を読んだ後ではとくに心に深くしみ入るものがある。

「本のともしび」シリーズは十冊刊行の予定とか。これ以上ない船出である。

『16日間の日記、29日間の日記』の方は、清野龍(ba hütte)、涌上昌輝(恵文社一乗寺店)、鳥居貴彦(開風社 待賢ブックセンター)、面高悠(灯光舎)の各氏によるリレー日記。京都の New Wave(ちょっと表現が古過ぎますかな)書店人たちがどんな日々を送って何を考えているのか、なるほどね。


by sumus2013 | 2021-03-06 17:21 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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