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林哲夫の文画な日々2
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海にいったらいい

海にいったらいい_f0307792_17321578.jpeg



山崎佳代子『海にいったらいい』(思潮社、二〇二〇年十月三十日、表紙画=カタリーナ・ザリッチ、装幀・組版=扉野良人)読了。山崎佳代子さんはベオグラードに住む詩人、拙ブログでもこれまで何度かそのお仕事を紹介した。

山崎佳代子『ベオグラード日誌』

小生より少し年上かと思っていたら、この本の著作目録のところに《一九五六年生まれ、静岡市に育つ》とあって、ひとつ年下じゃないか、と思ったとたん、単純にも、急に自分の態度が大きくなるように感じられた(韓国ドラマでよくある設定みたいに年上か年下かで態度も言葉遣いも変わる)。

本書には父上を亡くされる前後のあれこれを幼年時代の記憶をからめながら編み上げておられる。同じような体験をした同世代としてはうなずける描写が多々あった。ただ、女史の父上は植物を採集するのが仕事の一部なので、その点がこの「終焉物語」に特別な彩りを添えていて新鮮。二篇引用してみる(全文)。


 植物標本室

駅からは海が見えて
港は近く、大学行きの
バスは、すぐ見つかった

食事に行きました
直ぐ戻ります
標本、乾燥中ですので
箱の電源を抜かないでください
図書カンへ調べものに行きます
薬草園に行きます
お先に帰りました
29ビャクダン、30ムクロジ
イネ科交換用

研究室のドアに
貼っていたという
伝言の紙片は何度も使われ
セロテープのあとが黄ばんで
父が帰るような気配をのこして
思ったより、晩冬の日暮れは早い

ここから
うみが
べつの顔をみせて



 父が珍品とよぶ薬草

父が去った旧い家の戸口で
母は微笑んで独りで立ち
寂しくなるね、と言う

小さな庭には
父が山行きから
ドウランに入れて
根ごと持ちかえった
珍しい薬用植物たちが
死と再生を繰りかえして
この冬を越そうとしている

コンクリートを敷くまえの
黒土のままの庭に、ちいさな
妹がいる、弟がいる、私がいる

珍品を抜いちゃあかんぞ
母の耳にはありありと
父の声がよみがえる

娘が男の国へ戻る日の午後
旧い家の前に立つ母の耳には


この二作もそうだが、倒置というのか、最終行がつながりそうでプツリと途切れるような終り方(《みせて》《耳には》のように)なっているのが目立つ。三十九篇の内、二十一篇がそんなふうな切れである。作風というものか(女史の詩集を他に持ち合せていないので比較できないが)、本書において特別な意図があるのか、尋ねてみたいような気がする。

本文組みや装飾にも、ケイや星の使用、反転したタイトル、表紙の厚紙のやや薄いところ、表紙・見返し・扉の紙の取り合わせ、など扉野氏ならではのタッチが見られる。瀟洒というにふさわしい仕上がり。

by sumus2013 | 2020-11-14 17:47 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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