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河口から VI『季村敏夫個人誌 河口から』VI(二〇二〇年五月三十一日、装幀=倉本修)が届く。今号も充実の内容。 また會はむー悼松井純二十一句・・・・・・・閒村俊一 時間差の雲ー松井純さんのこと・・・・・・・福田尚代 池内紀さんの戦後に十年・・・・・・・・・・時里二郎 『旅の重さ』再読・・・・・・・・・・・・・阿部日奈子 あやめ草・・・・・・・・・・・・・・・・・季村敏夫 二つの森と不適切阿一つの流れ(上)・・・・岩成達也 静けさの鳴り響きについて・・・・・・・・・季村敏夫 バウハウス周辺ーモダニズムへの視角・・・・水田恭平 鳥たちの空、ベオグラード・コロナ日記・・・山崎佳代子 十二歳のスペイン風邪 大伯母の百年前日記 野田正子日記抄・・・・・・・・・・・・・・記扉野良人 巻頭、閒村氏の連作俳句は絶唱である。松井純氏の急逝については既報した。 松井純氏のこと 初めて盃を交はせしは洛中、人文書院編集者のころ ブルトン全集未完蕗味噌舐めてをり 弔問、二月十三日白山 にんぐわつのなきがらひとつよこたはる 起きろよ 死んだ振りするのはやめよ桃の花 起きて來よ淋しすぎるぞ春の雨 君の編集になる装幀本、枚擧にいとまなし ジョルジョ・アガンベン『開かれ』や夕霞 春月の花見小路でまた會はむ 巻末「十二歳のスペイン風邪」はすこぶる興味深い日記である。徳正寺の六角堂の奥から埃をかぶった六冊の日記帳が見つかった。扉野良人氏の大伯母「日野のおばちゃん」の日記(大正七年五月〜十一年九月、十二歳から十六歳)だった。そのなかから、当時、猖獗を極めたスペイン風邪についての記述を中心に抜き出し本書に掲載している。女学生の日常生活がよく分かる日記である。 だが、ここではあえてスペイン風邪には触れず、大正七年七月三十一日水曜日の本に関するくだりを引用しておこう。弟が学校の成績表をもらって帰った。父は中等位だなと笑っている。 《弟はよい点であったら何か買ってくれと母に云ふてゐましたので中等位と聞いて走つて母の所へ行つて何かだだをこねてゐましたがすこししてうれしさうに向のお医者様の武夫さんと云ふ六年の方と一緒に出ました。帰つて来て何を買ふたのと云つたら「本二冊」と云ふて幼年世界とトモダチと見せました。そしてこの二冊をもつてにこ〜〜して武夫さんと二階の部屋に行きました。》(p84) 『幼年世界』(1900創刊)は博文館で巌谷小波が主筆に迎えられて『少年世界』以降立て続けに刊行した児童雑誌のひとつ。『トモダチ』は二葉社の児童雑誌だが、詳しいことは分からない(海ねこさんに何冊か出ているが、なるほどのお値段)。 もう一カ所ビビッときたのは美術に関するところ。文展を見に行くというくだり。大正七年十一月三十日土曜日。 《午後和子さんと文展へ行き、美しく赤緑黄と巧に画かれた絵画を見て来た。玉舎さんのお父さんがお書きになつた収穫と云ふのも見た。帰りに沢山〜〜絵葉書を買つた。 文展で一番善かつたのは「ためさるゝ日」と云ふ[鏑木]清方さんのだつた。 [上村]松園さんの焔もよかつたが[栗原]玉葉さんや[島]成園さんや[木谷]千種女氏のも美しかつた。》(p96) 注がついていない《玉舎さんのお父さん》というのは玉舎春輝であろう。 《玉舎春輝(1880-1947)は、岐阜県に生まれた日本画家。 原在泉に大和絵の教えを受け、山元春挙に写実的技法を学ぶ。早苗会展や文展で数々の賞を受賞。人物、風景画を得意とした。日本自由画壇を結成に携わり、早苗会の解散とともに耕人社の結成に理事として参加。名は秀次郎、号は臥牛、旧姓は清水。》 《院展は面白かつた。けれどくど〜〜した画であつていやらしかつた。父は院展の画は皆これだと云はれた。弟もわけもわからずにこれへたとかあれが上手とか云つてゐた。》(p90) 京都のファミリーの代表かどうかはおくとしても、なんとなく京都人の趣味嗜好が分かるような気がする。その他、大正時代の生活の細部についてさまざまに教えてくれる貴重な日記。まとめて翻刻刊行されると聞いた。
by sumus2013
| 2020-05-31 20:47
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Comments(2)
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