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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


石をたずねる旅

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足立卷一『詩集 石をたずねる旅』(鉄道弘報社、一九六二年四月一日)。昨日、古書柳の棚より。帯とパラフィンカバーがあるのが完本だが、これは欠けている。安かったのでよしとする。装幀が誰なのか記されていない。足立の趣味だろうか? 気に入った。

《この詩集は、わたしの第二詩集にあたり、一九五九年から六一年までの三年間の作品を集めた。わたしが『夕刊流星号』とよぶ地方新聞社に注いだ情熱と理想をうしない、旅行をおもな仕事にするようになってからの、旅行中に書きとめた作品ばかりだ。だが、ここには固有の地名はいっさいあらわれていない。すべて心象の地誌である。》(あとがき)

写真も二十点ばかり収められている。

《フォトは、仕事でいっしょに旅行した友人の作品を、ずいぶんかってに切り取ったものである。どれも気に入ったわたし自身のオブジェだ。しかし、それ以外に詩作品とは特別な関係はなにも持っていない。》

友人たちとは、有馬茂純、石川忠行、入江宏太郎、川本五一、山内一夫の五人。検索してみると、有馬は宮崎修二郎と『岬 文学と旅情』(保育社カラーブックス、一九六九)を、石川は井上靖と『古塔の大和路』(毎日新聞社、一九七八)を刊行しており、入江は入江泰吉の甥でユーピーフォトスを一九五八年に創業している。

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足立自身の写真「終末」


巻頭の作品「スパイ旅行」前半を引用しておく。

ふかい海のいろをしていた鳥打帽は
すっかり、日焼けしてしまった。
ひどいほこりで吸取り紙のようにふくらんでいる。
黒いリュックサックには
レインコート、下着、がらくたのほか、なにもつまっていない。
朱色の旅行着の十一のポケットには
磁石、分度器、地図、色鉛筆、ノート、催眠薬。
そうして
ぼくは地の突端ばかり歩いてきただけだ。
北海のノサップ、宗谷、知床の岬ども
能登ノロシ崎、経ガ崎
犬吠、潮の岬、佐多、足摺。
だが、ぼくが最終のバスからおりると
のっぺらぼうのズボンがぼくを尾行する。
やつは四角いヒゲをはやし
ときには、ぼくそっくりの受け口のかおをしている。
ぼくが海へ向かうと
やつはきまって先回わりして
繋船のエンジンを引きあげてしまう。
やつは岩かげで携帯無電を打ちはじめる。
それはなんとおろかなしぐさだろう。
ぼくがやつの手帳にスパイ第六十九号と登録されているのは知っているが
この突端に
スパイをゆさぶるなにがあるというのか?


あとがきは次のように締められている。

《詩集を出すことは、にがく、むなしく、やりきれないものだけれど、それも非才が生きるうえには、多少必要な行為だと、わたしは永年思いこんでいる。》

by sumus2013 | 2019-11-18 20:12 | 関西の出版社 | Comments(0)
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