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林哲夫の文画な日々2
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女王の肖像

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四方田犬彦『女王の肖像』(工作舎、二〇一九年一〇月三〇日、エディトリアル・デザイン=佐藤ちひろ)読了。切手コレクションの世界も広く深い、実感させられる一冊。角背上製、濃い赤の表紙に貼り題簽という造本が「女王の肖像」と呼応しているように思える。

四方田氏とは同世代なので、切手ブームというのは、よく覚えている。中学一年のときのクラスに熱心に集めている友達がいた。小生も瞬間的に影響された。少年雑誌の広告を見て、使用済み切手のパッケージを通販で買った記憶がある。ただし、その一度で満足したというか、懲りたというか、幸いにも深入りすることなく、今日にいたっている。

著者は、小学校に上がって間もない頃、祖母から、祖母が若い頃買い求めて保存してあった皇太子殿下御帰朝記念切手(一九二一)をもらった。そのことがきっかけとなって切手に興味を持ち、自動車販売を手がける父のもとへ世界中のあちこちから到来する郵便物の切手を剝がすことから蒐集に入って行ったのだという。

《わたしはこうして切手の蒐集を開始した。折しも日本はもうすぐ東京オリンピックを迎えようとしており、郵政省は寄付金付きの菱形切手を売り出しては、子供たちの切手への情熱をしきりと煽った。切手蒐集はプラモデルの製作やワッペン、シールの蒐集と並んで、男の子たちが実践すべき必修科目のひとつと化した。お菓子を買うと美しい蝶を描いたルーマニアの切手が入っていたし、文房具屋ではビニール袋に包まれて、英連邦諸国から旧フランス植民地までさまざまな切手が売られていた。少年雑誌にはスタンプ会社の広告が満載されていた。子供たちは記念切手の発売日には郵便局に並び、新しい切手を一枚か二枚買ってから学校へ駆け出して行った。教室では休み時間に、熱心な交換会が開かれていた。》

そうそう、ここを読んで思い出した、クラスの友達から「初日カバー」というものを教えられたんだった。本書ではこう説明されている。

《「初日カバー」というものがある。英語ではFirst Day Cover、略してFDCという。これは切手がまさに発行された当日に、しかるべき郵便局に赴き、切手を貼った封筒にその日の消印を押してもらったもののことだ。》

似たような説明を友達から聞いて、どうしてそんなことをするのか、全く理解できなかった。要するに、その当時からコレクター気質には無縁だったのである。

一方、著者は半世紀以上にわたって切手を集め続け《今でも月に一〇〇〇円とか二〇〇〇円とか、海外で面白そうな新切手が発行されると、註文して取り寄せている。外国に出るときには思い切って切手商の扉を開き、いろいろなものを見せてもらい、何かしら、おしるし程度に買って帰る》、だが《要するにわたしの蒐集はどこまでも小学生時代の延長であって》《小学生時代の心に戻りたくて、いまだに蒐集をやめられずにいるということである》と書いておられる。とは言え、本書ではそのとても小学生の延長とは思えない蘊蓄の披瀝が読みどころのひとつである。とくに中国、ソ連、各地の植民地などで発行された切手についての記述にはささまざまなことを教えられる。

凹版、目打と無目打、エラー切手、加刷などの切手こだわりトピックもあり、切手を描く画家(ドナルド・エヴァンズ、平出隆氏の紹介で知られる)や切手小説(ベケットの「モロイ」)、切手の登場する映画まで飽きさせない内容。なかでも、最も引き付けられた描写は世界各地の切手商とのやりとりである。「「ペニーブラック」を買う」はロンドンのギボンズ詣での顛末、マドリードの切手商の表情、サイゴンで買ったストックブック、クロアチアのザグレヴの「フィラテリア」、九龍半島の尖沙咀の土産物屋、東急文化会館にあった小さな切手屋、ラバトやマラケシュの店、パリのパッサージュで親しくなったラカン博士のような風貌の切手商・・・切手を求めて世界をめぐった、わけではないにしても、このメトロポリタンぶりには驚く他ない。きわめつきは「キューバ青空市での奇跡」である。そこで著者は大収穫を手にする。それが何なのかは本書でたしかめていただきたいが、

《民宿に戻ったわたしは、けっして彼らを騙したわけではなかったが、持ち前の小心さから、微かに罪悪感の交じった興奮に囚われていた。これでよかったのだろうか。彼らが翌日になって切手を取り戻しにきたりはしないだろうか。》

という心配をするくらい貴重な切手だった(巻末に図版あり)。なんとも凄い掘り出し。

その小心な著者には《それを考え出すと夜になっても眠りに就くことができないような心配ごとがある》そうだ。それは・・・まあ、それも本書でお読みください。切手を集めたことがなくても、面白く読める一冊である。

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by sumus2013 | 2019-10-29 19:10 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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