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誰も語らなかった中原中也

誰も語らなかった中原中也_f0307792_20212522.jpg

福島泰樹『誰も語らなかった中原中也』(PHP研究所、二〇〇七年五月三十日)読了。ここのところ、読む本は梁山泊の表の均一台で探すことにしている。少々難アリのいい本が放出されていることが多い。社会科学系の硬いものを中心に、雑多なタイトルが並んで、ときに拾い物が見つかる、ある意味スジの通った均一台という感じがする。

本書はそんななかでの一冊。二〇〇五年に中原中也の葉書と肖像写真が発見された。宮崎県の東郷町に若山牧水記念館が開館するにあたって、当地出身の詩人・高森文夫の旧蔵書を調査していたとき、そのなかの一冊に中原中也の葉書が挟まっていた。本書は高森と中也の交際を、高森へのインタビューを核として、丁寧に見直し、作品との関連を追いながら、中也の生涯を語っている。福島泰樹ならではの熱い内容。

《中原中也が高森文夫宛てに出した葉書は、平成十七年三月、宮崎県東郷町「若山牧水記念館」四月開館に備え、高森文夫蔵書調査中、フランス本『CONTES CRUELS』(パリ、カルマン・レヴィ社)の頁の間(三一〇〜三一一)から発見された。》

『CONTES CRUELS』はリラダン(VILLIERS DE L'ISLE-ADAM)の作品集である。カルマン・レヴィ(Calmann-Lévy)からは一八八三年以来かなり版を重ねており、一九二三年、一九三〇年版あたりが高森の所持していたものだろうか・・・この点については本書については書かれていない。

同時に発見されたのが「麦の藁束」の上に仰向けに寝転ぶ写真で、これは中原中也が東郷村に滞在しているとき、高森が撮影したものだそうだ。

誰も語らなかった中原中也_f0307792_20212978.jpg

撮影日時は不明ながら、場所は、東郷町小野田「入舟旅館」階下の物置と特定されている。

《ここで若き日の高森文夫は、「姐さんをあげて、中也と酒を飲ん」でいる。中原中也が来訪した当時、東郷村には三、四軒の旅籠があり、旅籠は林業に従事する男たちの憩いの場所であった。二人は近所の農家の女中[ねえ]さんを相手に酒を飲んだという。》

《昭和七年夏から十一年までの四年間、その初夏か、あるいは七月か八月に、河原から小径を上り、裏口の物置に積まれた藁束を見るや、心地よいクッションの上に身を投げ出したくなったのかもしれない。渓流で冷やされたビールの酔いが、悩み多き詩人を心地よい眠りに誘ってくれたのかもしれない。》

何か、不思議に、不吉な感じのする写真である。本書の帯に印刷されている帽子をかぶった中也の写真もそうだ。昨年、このあまりに有名な写真を模写したとき、どうしても似て来ないで困った。見れば見るほど、貧相な顔である。大岡昇平だったか、この写真が中也の人気を決定したようなことを書いていたが、たしかに、昔の印刷の悪い図版だと、可愛い感じに写っていて、その意見にも頷けるところはある。しかし、最近出回っている、オリジナル写真に近い図版で見ると、目といい、鼻といい、唇の分厚さといい、頰から顎の線といい、まったく優しさがない。厳しさもない。なんというか、どうしようもない顔である。

ご存知のように、ランボーの例の顔写真も何度も描いていて、これもかなり状態の悪い原図なので、ある意味「美少年」に写っているわけだが、何度なぞってみても、どうしてもいい顔だとは思えない。何も知らずに、写真を見せられて、この男は三十でアビシニアあたりで野垂れ死んだと聞いても(実際に死んだのはマルセイユの病院)、なるほど、と納得できるような軽薄な顔立ちである。それでも、まだ、この中也の写真ほどいやなところはない(撮影年齢がもっと若いからかも)。

中也のそんな複雑さが詩作品にそっくり現れているわけだが、それ以前に(と同時に)、この顔にすべてがある。あるように見える。写真は怖い・・・(写真写りが悪いという不満に対して、ある人が「写真に写っているのが本当のあなたなんですよ」と答えていたが、なるほど「写」「真」というくらいだから、一理あるなと思ったことを思い出す)

by sumus2013 | 2019-07-29 21:30 | 古書日録 | Comments(0)
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