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林哲夫の文画な日々2
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銭湯断片日記

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武藤良子『銭湯断片日記』(龜鳴屋、2019年4月26日)が届いた。ブログ「m.r.factory」に発表された文章に加筆修正し編集し直したもの。二〇〇七年から二〇一八年までをカバーしている。銭湯に関する記事を集めて、登場する銭湯は百近い(巻末に一覧表あり、うち三十六に「廃業」の文字)。

銭湯の話ばかりじゃない。わめぞ、谷根千と、小生も昔は呼んでもらったり、一箱に参加させてもらったこともある、古本エリア。そこで生きる人たちの濃やかなつき合いぶりも確かな目線で描かれている。たとえば「月の湯」で何度か開かれた古本市。二〇〇八年のこと。

《かえる食堂でシフォンケーキを受け取り、要町から有楽町線に乗り護国寺まで。そこから「月の湯」まで歩く間、雨はやんだかと思うとまた降りだし、降りだしたかと思うとまたやみ。なんともはっきりしない天気。九時半、「月の湯」に着くと、すでに古書ほうろうさん、乙女湯さんが、男湯の喫茶スペースで仕度をしている。遅れてはならじと、かえる食堂のケーキを並べ、タフィーを並べ、たらいに氷をはり缶ビールとチュウハイを冷やす。そして、十時の開店を迎える。》

《雨がやんでからは人が増えはじめ、気づけば女湯の古本スペースにはみっちりぎっちりお客さんがいる。喫茶スペースはどうかというと、まずかえる食堂のシフォンケーキは午前中に秒殺で、タフィーもまったりと売れていき、そして蒸し暑いせいか缶ビールが良く売れる。午前中に来たナンダロウさんも一杯やって帰っていったし、午後に来た岡崎さん、エンテツさんは座布団に座り込み、周りを書店ギャルズに囲まれて、ここだけ銭湯の洗い場とは思えない宴会ムードを漂わせている。そんな人たちを前にして飲まないのもバカバカしいので、朝さん差し入れの缶ビールを飲みつつ、売り子をやる。》

文筆のデッサンが的確である。そういう意味で、個人的に好きなのは、古本屋を開業する王子のために物件を探してまわるくだり。二〇〇九年。

《昼過ぎ、古書往来座で瀬戸さん、王子と待ち合わせ。来年古本屋を開業する王子に付き添い、三人で不動産屋巡りをする。数年前にいくつかの不動産屋を回り南池袋で古書往来座を開業した瀬戸さんは、わめぞ近辺の不動産屋巡りの熟練者だ。顔見知りの不動産屋へ、こんにちは、と言いながらすっと入店し、僕なんかよりももっと才能のある若者が店を開くんですが、と必ず前置きし、王子の希望する条件を言っていく。瀬戸さん独自の不動産屋との駆け引きがすこぶる面白く、瀬戸さんの不思議な雰囲気に飲まれるように、この辺あまり物件ないのよね、と言いながらもあれもこれもと見せてくれる。不動産屋を三軒回り、教えてもらった物件を、散歩がてら缶ビールを片手に見て歩く。図面だけでも面白いが、実際の建物を見て回るのはもっと面白い。雑居ビルの地下の飲み屋街の元バーだったところ、警察署の裏の一軒屋、何かの店だったらしき古い家。この場所なら大きな音が出せる、この場所だったら店と住居を兼ねられる、この場所だったらあの棚を活かして改装して、と見ているだけで夢が広がる。楽しいな、不動産屋巡りだけして一生を暮らしたい、と王子に話し笑われる。》

瀬戸氏のキャラクターが浮かび上がるようではないか。古本屋ということでは、倉敷の蟲文庫さんを訪ねる「ただいま食事中」も、いっしょに旅行しているような、暖かい気持にさせてくれる。または、田端駅南口徒歩二分の石英書房。武藤さんの「曇天画」が飾られているそうだ。ちょっと見に行きたくなる……と書いて検索してみると、田端の店は二〇一二年一一月末に終了し、二〇一八年一一月より墨田区向島で実店舗を再開していた。

数多い食べ物の描写、こちらも「うまい」の連発のようでいて、なかなか観察の鋭いところを見せている。例えば二〇〇九年一月三日浅草六区「蛇骨湯」そばのラーメン屋など、この雰囲気、むしょうに、実際に現地で体験してみたくなった。引用しようかと思ったが、ここは全体を通して読まないと・・・ぜひ本書で。

「あとがき断片日記」もいい。《友人の古本屋が店を閉めた。谷中の夕焼けだんだんのすぐ上の、ビルの二階に入る古本屋だ。》と古書信天翁の閉店に触れつつ、語り部としての役割について思いを馳せるあたり、グッとくる。

手触りといい、挿絵の使い方といい、龜鳴屋さんのこだわりもたっぷり、こめられている。

by sumus2013 | 2019-05-04 19:59 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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