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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


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同人雑誌『耕』を三冊入手した。発行は「耕」同人会。創刊号(昭和二十九年五月十日)、第二号(昭和二十九年六月二十日)、第三号(昭和二十九年七月三十日)。編集代表は星野偕也。住所は東京都世田谷区祖師谷二ノ八九。いずれも、ガリ版刷り、六十〜六十二頁。創刊号がタテ22cm、ヨコ15.8cm、第二号はタテ21cm、ヨコ14.8cm、第三号はタテ24.4cm、ヨコ16.8cm。

創刊号に「先生」宛の手紙が挟まれている。

《同封した雑誌「耕」は、僕達数人のものが集って以前からの計画を実現しようとした第一歩ですが、同人の数も整わないまゝに発足したもので、それだけに苦労も大きかったわけです。結局創刊号は、殆ど星五平、タカノワタリ他、無名の文は悉く僕が書きなぐり、編集から、原紙切りまで引受けてしまったわけですが、これによって僕の近況報告にかえようという無精なこんたんです。
 二号、三号からは、同人も集まり、皆、積極的になって来ていますので、恐らく、軌道に乗り始めたら、そこに、僕らの世代の、現代の一つのかなり広汎な良心の断面が表現されて行くことゝ期待しているのです。》

《悉く、この社会とはずれてしまった僕の存在と最早自ら歎かうとは毛頭思いませんが、再軍備! 教育、言論、に対する圧迫! そして水爆!
余りにそれらに対して無関心なインテリ社会の中に入って、この世間からずれた無能な頭脳はぐらぐらする思いです。洞窟の中での独りの歯ぎしりが何になるのか? と思いながら。》

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同人の名前を検索してみたが、誰一人としてまともにヒットしない。ひととおり執筆者名(ペンネーム)を拾い上げておく。

創刊号
赤坂和男 星野偕也 城戸正宣 阿野敏之助 星五平 笹山道雄 平操子 タカノ・ワタリ

第二号
星五平 赤坂和男 星野偕也 木野連太 城戸正宣 平操子 本田菜穂 香月敬 阿野敏之助 笹山道雄 

第三号
阿野敏之助 星野偕也 岡野谷博愛 赤坂和男 本田菜穂 城戸正宣 久津甚六 木野連太 平操子 麻生 小野近 笹山道雄 香月敬 星五平 

表紙とカットは笹山道雄。文字や絵のタッチからして正式にデザインを学んだ人だろう。笹山は軽妙な詩作品も載せている。本文レイアウトを見ても、素人っぽさはなく、スマートに収められている。編集人の佐野も本業でも編集の仕事しているのかもしれない(サラリーマンとだけ書いている)。

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創作はスルーして「雑誌名決定経過報告」という興味深い文章の一部を引用しておこう。当時の同人雑誌の命名の傾向がうかがえるように思う。

《充分な段取りを待つていては何時この計画が実現するか分らない。兎も角創刊号を出してしまおうという事になり、東京在住で簡単に集まることの出来る同人四名が落手した原稿を持参して集まつた。四月二十九日の晩である。早急な計画実現のために集つた原稿の数は少なかつたが、この日、更に一つの懸案があつた。雑誌名の決定である。》

《先づ各人が案を提出し四名でこれと思うものに印をつけた。この第一回の選択に際して並べられた名前は次の通りである。
「北斗」「泥」「酸」「素」「乱反射」「影」「耕」「手」「紅」「牛」「極」「裸身」「どくだみ」「汚点」「時針」「轍」「しけ」「落陽」「フィロ」「尺度」
 次にこの中から四名の中三名以上が賛成するものとして「素」「耕」「極」「時針」「轍」「フィロ」が選ばれ、更に連記選抜によつて「耕」と「フィロ」とが残ったが、更に他の同人の意見を徴して「耕」と決定した次第である。成可この名前で私達のこの雑誌を成長せしめたいが、更に良い名前があれは[ママ]改名するのもよい。乞御協力。》

漢字一文字または二文字が同人誌名の一般的な傾向だったのか。ただ、一例だけのカタカナ名である「フィロ」が最後まで候補に残ったというのは同人たちの気分を反映しているようにも思う。


by sumus2013 | 2019-04-29 20:27 | 古書日録 | Comments(0)
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