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古書古書話荻原魚雷『古書古書話』(本の雑誌社、2019年3月25日)読了。『小説すばる』誌上で十年以上続いた連載、および『書生の処世』未収録のエッセイ(『本の雑誌』連載)、をまとまめた一冊。タイトル通り、古本についてのおもしろくてためになる内容ばかりである。一話が六枚と読み切るのにちょうどいい長さ。 『小説すばる』連載は二〇〇八年一月からスタートということで、多少なつかしい話題も出てくるが(ブックマーク・ナゴヤでの『sumus』トークショーとか)、古本がテーマなのだから、内容的にはそうそう古くはなっていない。自らの話題のレパートリー(抽き出し)を存分に披瀝しながら古本哲学(それは人生哲学あるいは生活哲学に通じる)を語る技、というか芸、はすでに円熟の域に達している。古本エッセイの傑作になった。 論より証拠、本書からいくつか名言を拾ってみよう。 《おそらく今も古本屋の均一棚には未来の古本屋における人気作家が眠っているはずだ。それが誰なのかはわからない。わからないからおもしろいのである。 古本における「鉱脈」というのは将来値上がりする作家や作品だけではない。文学史の本流から外れたところに自分にとっての「鉱脈」というべき一生の本を見つけることも古本屋通いの楽しみだ。》(文学は勝手放題のネゴト) 《ひとつのジャンルを追いかけていくうちに、行き詰まってくるし、まわりの人と話が通じなくなる。かといって、守備範囲を拡げすぎると、自分を見失う。 今のわたしは見失っている最中なのだが、当面は「手数料」を払いながら「即興」で本を買っていきたいと思う。》(武満徹の対談がすごい) この「手数料」というのはナット・ヘンフ『ジャズに生きる』(東京書籍、一九九四年)の《ジャズ・ミュージシャンの用語で、ギャラが小額かつ不規則ななかで、個性的な音とスタイルを摸索している時期のことを言う》。 《ふらっと古本屋に行く。何を買うかはわからない。途中、寄り道したり、ものおもいにふけったりする。》(雨の神保町、下駄履きで早稲田) 《安くていい本はすぐ売れる。ほりだし物を買いたければ、初日の午前中に行ったほうがいい。同じ本が二冊あれば、安いほうが先に売れる。人気の稀少本は二日目だとほとんど買えない。古本の即売会に関しては、残り物に福のあることは少ない。 ただし、二日目の午後は客も少なく、押し合いへし合いがないから、ゆっくり本を見ることができる。古雑誌のバックナンバーを目次を見ながら探すときには都合がいい。早起きしなくてもすむのもいい。》(二日目の古書展) 毎日通うという御仁もいるにはいるが・・・ 《竹中労がいなくなった四半世紀のあいだに世の中はずいぶん変わった。 わたしも変わった。図らずも心ならずも。 それでも家の本棚の竹中労の本を見るたびに古本屋通いをはじめたころをおもいだす。 汝、志に操を立てよ。過程に奮迅せよ。迷ったら買え。》(竹中労への招待) 迷ったら買え・・・う〜ん、言い聞かせてはいるのだが、これがなかなか難しい。 《趣味ではなく、それでメシが食えるところまでいかなければ、古本のことをわかったとはいえない。》(書庫書庫話) これは小林秀雄が骨董に入れ込んで、原稿を書かずに、骨董を売り買いしていた時期があったことが前ふりとしてある。とにかく何でも買わなければ分らないのだ。買うためには、たいていの人は、売らなければならない。 そして、神様・八木福次郎さんの言葉の引用。 《「古本屋に足を運び、書棚に並んだ本を手にとりながら、その内容や美汚を確かめ、気に入った本を求めることは喜びである。古本屋や古書展へ足を運ぶことによって、目指す本だけでなく、それに関する本を見つけることもできる。時にはこんな本もでていたのかと気付くこともある」(『新編 古本屋の手帖』あとがき)》 これを荻原流に翻案すれば 《本は一冊で完結しない。一冊の本は無数の本につながっている。つながっているのは本だけではない。文学、実用書、漫画、音楽、将棋、野球、釣り、家事。ジャンルはちがっても掘り下げていけば、かならずどこかでつながる。人が歩いた後に道ができるように読書の後にも道ができる。》(あとがき) まさにその通りである。
by sumus2013
| 2019-03-25 21:37
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