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林哲夫の文画な日々2
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ベーエヌの司書

ベーエヌの司書_f0307792_20464333.jpg


『わがヴィヨン』のつづき。

《ようやくレゼルヴにたどりつく。建築家アンリ・ラブルーストが大ホールを構築した時点で、貴重本の管理と閲覧人の監視のためにしつらえられたこの小空間がすでに出現していたかどうかは知らないが、その後第三共和制下に管理と監視のシステムが一層入念に練り上げられてきたことだけはたしかである。ガラス戸を押しあけると(ここは引くだったかな)そこに番台があって、そこにマダムが座っている。見ると、その向こうにコントロールの島が浮かんでいて、そこにもマダムがいる。この二人の女性がシステムをコントロールしていると見た。図書請求伝票にも、閲覧の理由を書かなければならない。学術調査というような漠然とした理由ではだめだと注意書きがしてある。「ヴィヨン遺言詩集の他の諸刊本とこれを較べ、異同を確認するのが目的」と書いて出したところ、島の女性、これがまた、いかにも「ベーエヌの司書」然としたインテリマダムなのだが(ベーエヌというのが、ここフランス国立図書館の巷での呼び名なのです。ビブリオテーク・ナショナルの二文字の頭文字)、この詩集の批判的校訂本はいろいろあるではないか。なにをいまさらマロのを見たいのかと追及なさる。》

ベーエヌの司書_f0307792_17263319.jpg


《なるほど、あなたがいろいろあるとおっしゃる校訂本に満足できるものならば、いったいだれがここまで押しかけてきましょうや。わたしは「ヴィヨン遺言詩」の日本語による批判的校訂本を作ろうと考えている。だからみんな見たいのです。マロのも、人に頼るのではなく、マロの校訂本の原本を見なければ、気がすまないのだと、なんとかかんとか理由を述べ立てて、やっと納得してもらった。納得したかどうかは知らないが、ともかく座って待っていなさいといって、わたしの書いた伝票をヒラヒラさせながら、奥に入って行った。そこでおとなしく、待っていたら、本を持ってあらわれたのはもう片方の女性、番台のマダムだった。どこで入れ替わったのか。なんか、おかしかったのを覚えている。》

バインダーを広げてボールペンでメモしていると鉛筆を持って来た。

《そのマダム、こんどは鉛筆を一本、指で立てて持って来て、これを使えという。その持って来方がおかしく、思わず破顔したわたしに誘われたか、向こうもニヤっと笑う。そういう、これは「ベーエヌの司書」然としたマダムとは別種の、これもまたフランス国立図書館に棲息する女性たちの、もうひとつのタイプのマダムでした。》

ベーエヌの司書_f0307792_17263901.jpg

《本は十三センチに八センチほどの小型本で、白羊皮装丁。背表紙に黒字で Villon 、表表紙右隅に 1533 と刷り込んであるというシックな出で立ち。こんなすばらしい装丁は小沢書店の本でも見たことない。》

白羊皮装丁とあるので、一昨日写真を掲げた『フランソワ・ヴィヨン全集』とは異なるようだ。Gallica(bnfの検索エンジン)で検索してみると、当該本はモノクロの本文ページだけしか閲覧できなかった。装丁がどうなっているかは今のところ分からない。一五四〇年版がAbeBooksに出ているが、これは赤い装幀である。さすがのお値段。

Gallica Les oeuvres de Françoys Villon


Les Oeuvres de François Villon. Les Cantiques de la Paix par Clément Marot.
Edité par Paris, Jehan Bignon, 1540

《ここでご案内しておくが、「ヴィヨン遺言詩」と名付けられる詩群は原本をもたない。いくつかの写本と印刷本が残っているだけなのである。「ヴィヨン遺言詩」と呼んでいるのは、十五世紀の末、一四八九年に、パリの出版人ピエール・ルヴェが出版した印刷本、『テスタマン・ヴィヨン』の表題に従っているだけのことである。》

《ルヴェ本ののちマロ本が出版されるまでに、パリやリヨンなどで二十種を超す刊本がかぞえられた。写本は主なものに四つあって、二つは「ベーエヌ」に、一つはその分館のアルスナール図書館に、もう一つはストックホルムのスウェーデン王立図書館にある。》

おそらく一昨日の書影は『テスタマン・ヴィヨン』であろう(引用した本に詳しい説明がないのです)。それならこちら。


なお、一番上のカラー書庫は『La Bibliothèque nationale / mémoire de l'avenir』(DÉCOUVERTES GALLIMARD,1991)より。モノクロ書影は『BIBLIOTHÈQUE NATIONALE』(ÉDITONS ALVERT MORANCE, 1924)より。以前にも一度紹介したような気はするが、まあいいでしょう。

by sumus2013 | 2019-01-18 20:43 | 古書日録 | Comments(0)
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