林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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ベオグラード日誌

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山崎佳代子『ベオグラード日誌』(書肆山田、二〇一五年二月一〇日二刷)。「百年のわたくし」(https://sumus2013.exblog.jp/30181220/)会場で求め(著者サインを頂戴しました)ゆっくりと読んでいた。日記体ではあるが、日記を超えて創作として堪能できる、多くのことを考えさせてくれる作品である。

《本書は、季刊誌「るしおる」の45号から終刊号の64号まで、二〇一年から二〇〇七年の間にかけて連載されたエッセイ「ベオグラード日誌」をもとにしている。このたび加筆し、十二年間の暮らしを点描した。

《詩を書きはじめてから、私はベオグラードの住処を変えていない。宇宙飛行士ユーリー・ガガーリンの名をとった通りの名は同じなのに、国の名前は何度も変わり、ユーゴスラビア社会主義共和国連邦から、今はセルビア共和国となった。激動と言っていい時代を、日本とセルビア、世界の様々な土地に住む友人たちや家族に守られて、葡萄酒の美味しいこの土地で暮らすことができた。》(終わりに)

共通の知人宅で初めてお会いしたのが二〇一六年の七月、同年十一月には日文研のフォーラムで講演されたのを聞かせてもらってすっかりファンになった(と言いながら著書を読んだのは今年になってからとは・・・なさけない)。

ツルニャンスキー

山崎さんは非常な本好きとお見受けした。むろん内容本位(読む人ということ)であって古本者ではないと思われるが、本に対する執着はかなりのもの(打ち上げなどでその言動を観察した結果で断定します)。日誌に古本が出てくる箇所があった。二〇〇五年。

《十二月十五日
 文学芸術研究所にてセルビア高踏派詩人ミラン・ラキッチ(一八七六年ー一九三八年)の研究会。ペトコビッチ教授が座長をつとめる。韻文の形式を研究しているSさんが、戦前に出版された貴重な詩集を持っている。「市場で見つけたの。夏、野菜を買っていたら、お婆さんが屋台に本を数冊、並べている。ああっ、と驚いた。すぐにお金をとりに家にもどって買ったのよ」紙は黄ばんでいる。ミラン・ラキッチは、パリで法学を学び一九〇四年から外交官として働きながら、詩を書き続けた。ベオグラード文体と呼ばれるスタイルを築いた詩人。当時、オーストリア支配下にあったコソボのプリシティナ市に領事として駐在、一九〇八年から一一年までを過ごした。

う〜む、どこの国にも掘り出しものはあるのだ、当たり前ながら。

ベオグラードの人々との交流も読みどろこではあるが、リアルだったのは二〇一一年三月一一日の記述。ちょうど日本に帰国してまた戻る直前だった。

《三月十一日
 代官山町のIさんの集合住宅の六階、床にトランクを広げて荷づくり。午後二時四十分ころ、突然、テレビがベルを鳴らし地震警報を告げる。三陸沖が震源地らしい。わずか数分でぎしぎし建物が揺れはじめた。窓の向こうの灰色の高層ビルも、ゆさゆさ左右に揺れている。長いこと建物は揺れ、縦型ピアノが動きはじめ楽譜がばらばら落ちていく。乾いた音をさせて震えるテレビの画面は、地震が東北地方を襲ったことを告げ、津波警報を発している。傍にあった椅子に足をしっかりつかんでしゃがみ、揺れが止むのを祈る。なんということなのだろう。なんということになったのだろう。唇がかさかさに乾いていた。扉を開けて、お隣の奥さんと初めて声を交わす。
 代官山駅は人であふれた。電車は止まった。だれもが静かだ。大きな声を上げる人はいない。駅のそばの電話ボックスに人の列ができていた。携帯電話はつながらない。人々は歩いて家に帰ろうとしている。不思議な静けさには哀しみが染みこんでいる。》

文中「揺れが止むのを祈る」とあるところになるほどと思わされた。今の日本人はこういうときに「祈る」だろうかな、とちょっと考えてみたりした。それにしても、金時鐘氏も東京にいたということを以前書いたが、山崎さんも3.11を体験していたとは。

『背中の地図 金時鐘詩集

もう一度「終わりに」から引用しておく。

《バルカン半島という辺境の宿命について、今、思いを巡らせている。様々な征服者、幾つもの戦争が繰り返されるこの土地では、人の手が生み出したものを守り、文明の形を後世に伝え続けるのは困難だった。大きな国が形あるものを伝えることはさほど難しくはないが、小さな国が形あるものを伝えるのは容易いことではない。
 しかし形のないものを語ること、形を失ったもの、これから形が生まれようとするものについて語ることこそが、言葉にゆだねられた仕事であるのだとしたら、南ヨーロッパの辺境で私が三十余年を過ごしてきたのは、それほど悪いことではなかった。悪戯好きの運命が、ベオグラードという町で、私という「日本文学の戦中派」を産み落としてしまった。いつのまにか私の日本語が、日本文学の辺境を形作っている。》


by sumus2013 | 2018-12-30 20:53 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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