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コーヒーカップの耳今村欣史詩集『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア、二〇〇一年六月一日二刷)。個展会場にて頂戴しました。御礼申し上げます。帰宅の電車中で面白く読ませていただいた。 喫茶店のカウンターで常連の客がマスター相手に身の上話をする、それを写し取ったスタイルである。 《カウンター席にお座りになるお客さまは、みな話好きである。一様に明るい。ところが実は、淋しがりやでもある。胸の中に、誰にでも話せないものを抱えておられることが多い。とてもここには載せられない、深刻で陰惨な話もある。それを私には包み隠さず、つとめて明るく話して下さる。ありがたいと思っている。》 これは著者の前書きであるが、安水稔和氏(今村氏の師)による懇切かつ長文(八ページにわたる)の跋によれば、本書に先立つ私家版の詩集も息子さんや娘さんの幼い頃の語りをまとめたものだそうだ。安水氏はそういうスタイルの詩集を「口頭詩集」と呼んでいる。こどもの絵が面白いように、こどもの言葉も思わぬ発想の飛躍に驚かされることがしばしばある。例えば児童雑誌『きりん』にもそんな詩がいっぱいだ。 なるほど、そうか、本書は大人の『きりん』なのだ。一篇だけ全文を引用させてもらう。粒ぞろいなので、どれにするか、かなり迷ったが、「年齢」を選んでみた。 救急車の中で お年は? と訊かれたんで六 十歳て答えてやったんです。そしたら嫁はん 薄れる意識の中から「まだ五十九」て言いま してん。たしかに六十まであと二月おました。 そやのに 仏事は数えですよってに葬式は六 十一で出してしもうて。今からおもたら 嘘 ついてでも五十九で出してやったら良かった な おもてます。 「二月」にはルビ「ふたつき」、「数え」には傍点がある。これはまだ軽い方で、もっともっと重いテーマの作品もあれば、笑いを誘うベタな関西風もある。それらの取り合わせ、というか構成も良くできている。 今村氏は大人たちの言葉を代弁(代書)する語り部、あるいは口寄せ(?)なのだろうか。いや、ドキュメンタリーが必ずしも事実そのものでないように、どうも本書を何度か読み直していると、ここに描かれたドラマは極めて巧みな詩人の仕業に違いないと思われてくるのだった。
by sumus2013
| 2018-12-18 20:21
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Comments(3)
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