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父の仕事場その4「父の仕事場」のちらしをコピーで作りました。 《 農具や工具をはじめ父は何でも自分で作る人だった。家の修繕も在り合せの材料を使ってやってのけていた。子供の目から見てもそう器用とは思えなかったが、実用には十分耐えるだけのものをこしらえた。フランス語に「ブリコラージュ」という言葉がある。手近の字書には「いろいろな仕事に手を出すこと。にわか仕事、おざなりの修理」などと説明されている。これはそのまま父に当てはまる。 父の残した道具類はほとんどが木と鉄でできている。徳川時代から変わっていないのではないかと思えるものすらある。例えば、昭和四十年頃まで木製の唐箕(とうみ)を使っていたのを覚えているし、田畑を耕すために牛を飼っていた。東京オリンピック頃から慌ただしく機械化が進み、ビニールやプラスチックの製品が急増し、化学肥料や農薬も夥しく使われ始めた。 物心ついたころから思い返してみると、父はさまざまな作物を育ててきた。米麦はもちろん、煙草、玉葱、サトウキビ、椎茸、西瓜、南瓜、苺……まだまだあったような気がする。農地はたしか五反(約五〇アール)か、もう少し広いか、その程度ではなかったろうか、一町(一ヘクタール)には足りなかった。耕地面積が限られているため、その時々で実入の良い作物を選んで乗り換えて行くのである。品種を変える度に、それぞれに必要な道具の種類が増えていく。それまで使っていた道具を組み合わせたり、改良して間に合わせることも珍しくなかった。ブリコラージュの本領発揮である。 養鶏に手を出していたこともある。最近、改めて納屋の二階を点検していると、古いガラス窓が壁に立てかけてあるのに気付いた。風雨に曝されたペンキの風合いが何とも言えない。これはどこの窓なのか、しばらく記憶をたどってみたのだが、どうやら鷄小屋の一部ではないかと思われた。とっくに取り壊した建物だ。いつかまた利用するつもりで取って置いたに違いない。 その窓枠の緑が、不思議とマルセル・デュシャンの「FRESH WIDOW(なりたての未亡人)」を連想させた。父の思惑とはかけ離れているにしても、オブジェ作品として生かせれば、その遺志を無駄にしないですむかもしれない。「Feeble Widow(年老いて弱った未亡人)」と名付けて、ひとり悦に入っている。》
by sumus2013
| 2018-12-11 09:00
| 画家=林哲夫
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