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彼方の本間村俊一『彼方の本 間村俊一の仕事』(筑摩書房、二〇一八年一一月五日)。もう随分前に装幀作品集を作りたいと間村さんは言っていた。「どっこも引き受けてくれへんのや」(たぶんこんな口調で)とぼやいていたが、ついに筑摩が英断、本書の発行となった。予想通りの美しい本になっている。 装幀本の書影(それらはヒラだけを並べるのではなくほぼすべてをブツ撮りによって立体的に再現)、エッセイ、俳句、創作、そして堀江敏幸氏の跋まで、淀みない構成になっている。間村本は意識的に集めている(とは言えブックオフで、ですが)。シックな色感、清潔な紙の選び方、渋い画・像の選び方と大胆な扱い方、そして何より文字の配置の絶妙さ。一見普通に見えて密かに凝った作りとでも言うのか、「玄人の仕事」を感じさせてくれ本ばかりである。 図版を眺めていて、さすがと思うのは、帯だ。帯はほぼ文字だけで勝負する。その文字配りの「塩梅」が見事の一語。ダラけていないのは言うまでもないが、几帳面すぎもしない。堀江氏は鋭く、その特質を「うるわしき無頓着」と命名している。 《間村俊一は文字のひとつひとつを、頼りがいのある異物として、丁寧にならべる。生まれも育ちもちがうから、文字は組み合わせしだいでその字間の印象を大きく変える。機械で定めるところの字間と、眼に心地よい字間とはべつものなのだ。実測による正確さではなく、だいたいこのくらいで、という大雑把さを生かすには、やはり写植がいい。仕あがりはじつに端正だが、その端正さを引き出しているのは、よき無頓着なのである。》 「本の種」という装幀のモチーフをめぐるエッセイが面白かった。本書の表紙にもなっているペンギン、これは堀江氏の『本の音』のために東寺の骨董市(弘法さん)で求めたものだそうだ。 《装幀の素になる本の種は、おおむね町で拾う。アンティークショップ、古書店など、目を皿にして探し歩く。錬金術の種を求めて中世の路地裏をさ迷ったパラケルススのような日々とうそぶくばかりである。》(本の種1) 福島泰樹『月光忘語録』(https://sumus2013.exblog.jp/29852694/)の豆皿も「本の種」に登場! 小生の名前も出ているので、ご興味ある方はぜひ本書にて。カバーに小生の絵が使われた大西巨人『神聖喜劇』と荻原魚雷『古本暮らし』の書影も出ていて、これはかなり嬉しい。何しろ装幀本三千のなかから三百ほど選んだというのだから競争率は高いよ。 間村さんの文章はケレンがない(ケレン味たっぷりな文章を装っているけど)。装幀と同じで清潔だ。間村さんが夢の話を書いても、内田百間が夢の話を書くようなどんよりとしたイヤな感じはまったくしない。人柄というものだろう。例えば「抱一狐」よりまず冒頭。 《駅までは確かにこの道が近かった筈だと歩き出してみるのだが、なかなかたどり着かない。 そのうち日も傾き、あたりは見知らぬ路地が続くばかりである。やがて低い家々の向うに銀杏とおぼしき巨木が見えた。それを目印に先へ進む。時々不審な黒い物が足元をよぎる。猫のようでもあるがはっきりしない。しばらく行くうちに尺八の音が聞こえて来たのでその方へ曲がると、お稲荷さんを祀ったお社に出た。小さな祠を背に、誰かが尺八を演奏している。大勢人が集まっている。どうやら初午の祭りらしい。》 そして最後の段落。 《根岸に越して来た。江戸の文人酒井抱一が庵を結んだあたり、旧町名では下根岸になる。住居近くの金曾木小学校の脇を入ると左に下根岸稲荷神社、通称石稲荷があり抱一上人所縁の品が宝物として伝えられている。鶯谷の駅まで通う道すがら、これも何かのご縁と思い毎日手を合わせているのだが、桜の蕾も綻び始めたある夕刻、お賽銭を入れて頭を下げていると後ろで動くものがある。出たなと思ったら案の定狐だ。正一位石稲荷大明神の幟の蔭からこちらに向かって手招きするところをみると抱一狐に違いない。さては明け方の夢もこいつの仕業か。機嫌を損ねるのも後々厄介だ。よし、まだ時間は早いが鍵屋にでも誘ってやろう。桜正宗のぬる燗に抓みは煮奴。先に歩き出したのにいっこう附いてくる様子がない。そうか、うっかりしていた。抱一上人、からっきしの下戸だった。しょうが無い。一人で鍵屋の引き戸を開けると後ろでコンという恨めしそうな声がした。 うぐひすや下戸殿ゆるせ晝の酒》 とまあ、白昼夢ならぬ白昼酒?。本篇のみならずエッセイのいたるところに酒が出る。まるで「彼方の酒」である。お酒はほどほどに(といっても無駄だろうけど)いっそういい仕事を見せて欲しいと願っている。 閒村俊一装幀集『彼方の本』刊行を祝ふ會 間村俊一装幀展 ボヴァリー夫人の庭 間村俊一さんの装幀展「ボヴァリー夫人の庭」に行ってきました! 閑話休題・・「間村俊一装幀展-ボヴァリー夫人の庭」・・・
by sumus2013
| 2018-11-24 21:14
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