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林哲夫の文画な日々2
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名井島

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時里二郎『名井島』(思潮社、二〇一八年九月二五日、装幀・装画=望月通陽)読了。『石目』以来五年が経ったのか・・・

時里二郎『石目』

実は、この作品を繙く直前、『フィリップ・K・ディックの世界 消える現実』(ペヨトル工房、一九九一年、河出書房新社より二〇一七年に復刊されている)を読み終わったところだった。ディックへのインタビューをまとめたもので、彼のSF作品が生み出される背景がよく分かる。その本に刺激されて久々にサンリオ文庫の『時は乱れて』(一九七八年)を読み直したりしはじめたのだが、ちょうどそこに重なって本書が届いた。

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表紙


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驚いたことに、というかいくつかの作品は氏の個人誌『ロッジア』で読んでいたわけで、そのとき薄々気づいていたのだが、『名井島』としてまとめられたこれら連作は、ディックのSFとほとんど変わらないではないか。フォーマットとしては詩集であり、同時にまた散文集なのであるが、表題にも奥付にも「詩集」という冠はない(ただしご本人は新詩集とブログに書いておられるので詩集で間違いはないようです)。詩と散文が綾織につづられた古の「物語」に近いものと言えるのだろうか。

本書に頻出する単語がまた、人形、アンドロイド、ヒト標本、ロボット、ヒューマノイド、雛(ひいな)、木偶、傀儡、人工知能・・・ディック的なシュミラークルを顕示する。

《アンドロイドであるわたしは夢を見ない 見るようにはできていない》(オルガン)

うーむ、名井島のアンドロイドは電気羊の夢を見ないとは……。この人形(ひとがた)へのこだわりが言語を取り巻く過去・現在・未来への問いとなる。

《なぜなら、《ヒト標本》であるわたしたちには、その原型となるヒトがいるのは当然で、彼の(彼女の)履歴は消去されているものの、それらの履歴を組み立てている神経系の記憶伝達の受容システムはそのまま残される。》(夏庭2)

《少なくとも、歌を詠む主体がヒトでなければ歌でないのか、言い換えれば、歌が通過する媒体はヒトでなければならないのか、ヒトに限らず、歌の憑く依り代であれば、ヒトでも人形でもかまわないのかという問いが残されるだけだ。そして、それに答えるのはわたしではない。》(歌窯)

《《伯母》によると、不具合を抱えたアンドロイドのサナトリウムを作ることこそが、名井島のほんとうの目的なのだという。《母型》は、帰島した言語系アンドロイドのリハビリをとおして、その不具合に潜んでいるヒト言語を包むあいまいな負荷をとりだすことに執心しているのだと。》(《母型》

そして巻末に置かれた二行。

《ワタシタチハスデニひと言語ニ取リ込マレテイル
 ひと文明ヲ消滅サセタ《言語構造物》ノ瘴気ノナカニイル》(《母型》

『フィリップ・K・ディックの世界 消える現実』には著者によるこんな分析がある。

《『時は乱れて』では、時間が停止するわずかな間に、主人公の前でソフト・ドリンクのスタンドが《ソフト・ドリンク・スタンド》と印刷された紙切れだけを残して、飾りつけもろとも見る見るうちに消失する。》(第1章消える現実)

言語構造イコール仮の現実。しかし考えてみれば、例えば『源氏物語』は言語のなかにしか存在しないのだから(オリジナルの原稿も失われているばかりか、タイトルすら不明のままの、シュミラークル:写本でしか伝わらない)、あらゆるほとんどのものが実は言語構造のなかにしか存在しないのである。「名井島」は、ない島、どこにも無い島、いや言語のなかにのみある島なのだ。


余談。『名井島』を読み終わって散歩に出た。行きつけのある古書店の均一棚でふと目にとまった『吉本隆明新詩集』(試行出版部、一九七五年)を求めた。なんと巻頭の詩のタイトルが「島はみんな幻」! 末尾六行を引いておく。

〈きみ〉は知るまい
〈きみ〉が〈クニ〉と称して恨んだりよろこんだりしているもの
が じつは幻の島にすぎないこと
〈きみ〉は知るまい
〈きみ〉が島と称して辺境にうかがうもの
が じつはさびしいひとつの〈クニ〉であること

by sumus2013 | 2018-10-02 20:20 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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