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林哲夫の文画な日々2
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鳥の棲む氷の国

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蜂須賀正氏随筆集 鳥の棲む氷の国』(小野塚力編、我利我書房、二〇一八年一〇月二三日、表紙デザイン=小山力也)読了。

蜂須賀正氏(はちすか・まさうじ)は旧徳島藩主蜂須賀家の第十八代当主。父蜂須賀正韶は侯爵、貴族院副議長。母筆子は徳川慶喜の四女。鳥類学者、探検家、飛行家。一九〇三年生まれ。学習院初等科に入った頃から生物に著しい関心を示し、一九二一年、父の母校でもあるケンブリッジ・モードリアン・カレッジに入学した。

《政治学を修めるという口実だったが、もっぱら鳥類の研究に没頭し、大英博物館や剥製店や古書店に通い詰める。さらに、銀行家ロスチャイルド家の出身で『絶滅鳥大図説』の著者である動物学者の英国貴族第2代ロスチャイルド男爵ウォルター・ロスチャイルドと親交を結ぶ。さらに、豊富な資金力に物を言わせて探検隊を結成し、アイスランドやモロッコ、アルジェリア、エジプト、コンゴ、南米、東南アジアなどを踏破。1928年、英国から一時帰国中に、有尾人を求めてフィリピンでジャングル探検を決行。卒業論文は「鳳凰とは何か」で、伝説上の霊鳥鳳凰のモデルを、カンムリセイランとした。/留学先では「ラストショーグンの孫」と呼ばれていた。》(ウィキ「蜂須賀正氏」)

とこの辺りまでは我が世の春という感じだが、この後、後半生がちょっと凄い。本書の旅行記も世界各地にわったって面白いには違いないけれど、もし率直な自叙伝を書いていればベストセラーになっていたかもしれない(あらましはウィキを参照されたし)。

鳥や魚などばかりでなく多くの動物や植物について書かれていながら、門外漢でも楽しく読めるのは巻頭の「琉球採集旅行記」であろう。戦前の沖縄については柳宗悦のものなど読んだような気もするが、本書はイキイキとした日録であり、沖縄の人々の昔ながらの暮らし振りが眼前に見るように伝わって来る。ハブ獲りの話などスリル満点、まさに冒険譚であろう。そんな夢の島で採集活動をしていたのは何も正氏一行ばかりではなかった。たとえばチラリと出てくる阪神パーク水族館。こちらは相当にバブリーだ。

《数年来、神戸の阪神パーク水族館は沖縄の海魚を採集に来ておるが、その方法は可成り大仕掛で、採集者は那覇から相当の距離にある無人島にキャンプを造り、糸満の漁夫を大勢雇傭して、そこに数日間も滞在して活魚として捕えるのである。そして、魚は其儘特別のタンクに入れ神戸に運ばれる。》(琉球採集旅行記)

《瘤猪が日本に輸入されたのは約十年前のことであって、兵庫県甲子園の阪神パーク及び京都動物園に数頭飼われて居た。けれどもいずれも去年(昭和十七年)の末迄には死に絶えてしまい、現在に於ては一頭も生存していない。阪神パークのものは幸にも仔獣を産み、これが親獣と同一体型にまで達した。》(瘤猪)

浜甲子園阪神パーク

【1934年】水族館(昭和9年)▷「阪神パーク水族館」(兵庫県西宮)の開館

長崎図書館(現・長崎県立図書館)の記録も興味深い。正氏はドド(ドードー)鳥の研究家としても知られ、そのドドがジャワからオランダ人によって長崎までもたらされていたらしく、その記録の調査を増田廉吉図書館長に依頼した。

《長崎の市中には旧式な洋館が多く、それが過去の歴史を物語っているように思われる。その中の一つが図書館であるが、木造のペンキ塗りの半ば剥げかゝった見るからに貧相な建物である。しかし、その内容は尽きぬ興味に溢れている。館長の説明で、色々の重要書類や標本を拝見した。例の有名な踏絵の本式のものを初めて見た。》(中支生物紀行)

動植物ばかりでなく、支那の役人やヨルダンの王族に関する観察もなかなかのもの。具体的には本書にてどうぞ。

戦前にアメリカからヨーロッパを巡り、また中国を訪れた文化人は少なくない。けれども、正氏ほど東南アジア、アフリカ、中東、アイスランドまでをも含む「世界」を自らの足で知っていた人物はまれではないだろうか。野生のゴリラに対面した初めての日本人とも言われているそうだが、本書のエッセイ群によって真の世界人としての一端が如実にうかがえる。

by sumus2013 | 2018-10-01 17:34 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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