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林哲夫の文画な日々2
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ゲルマントのほう II

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プルースト『失われた時を求めて6 第三篇「ゲルマントのほう II」』(高遠弘美訳、光文社古典新訳文庫、二〇一八年七月二〇日)読了。「失われた時を求めて」のひとつの大きな山場である。本巻のほぼ三分の二がヴィルパリジ侯爵夫人のサロンの描写なので、ひょっとしたら多くの読者にとってこの巻は本作を通読しようという意気込みをくじく大きな壁になるかもしれない。

《本巻の最初の二百頁以上をなすヴィルパリジ夫人のサロンの場面で言及される人物名や特殊な言い回しに、二十一世紀の日本に生きる私たちはどこまで通じていればいいのか、読書の快楽を阻碍しかねない註はなるべくつけないという方針をどこまで貫けばいいのか、訳者たる私は今回今まで以上に迷わざるを得なかった。》(高遠弘美「読書ガイド」)

結局かなりの数の註をつけたのだが、しかし、そんな註など気にせずに読みなさいと訳者は勧める。そして

《ただ私は、もし本巻の延々と続く社交界の場面で息切れしたとしても、気になさる必要はありませんよと申し上げたいだけである。
 プルーストを最後まで読めなかったとき、人はしばしば「挫折」という言葉を使う。だが、岩波文庫で二十六冊の『マドリュス版千一夜物語』を最後まで読めなかったとき、『千一夜物語』に挫折したと言うだろうか。

《そこにはあとで紹介するファニー・ピションが指摘するように、あえて言えば知的スノビズムが関わっているのではなかろうか。「プルースト、読んだよ」とか「カラマーゾフ、面白いね」と言いたいのに言えないときの一抹の悔しさのせいと言えばいいのかもしれない。さりながら、読書にはとかくスノビズムがつきものだとはいえ、スノビズムを満足させるための読書はやはりどこか歪[いびつ]である。読書は根元的に生きる力、生の喜びに結びついていなければつまらない。それゆえ、「挫折」という、逆方向のスノビズムの存在を窺わせる言葉は、率直に言って、プルーストに限らず、中断した読書にふさわしい言葉ではない。》

以下、訳者の弁明(ではないでしょうが、もちろん)は続いて、ひとつの読書論としても興味深く読めるのだが(断片的な引用では誤解を招きかねない、全文をぜひ本書にて)、少なくとも小生は、本巻がこれまででいちばん面白かった、と感じた。ヴィルパリジ夫人のサロンで飛び交う固有名詞はともかくとして、そこに登場する人物と立場とドレフュス事件というフランスの国論を二分する大事件(事件としてはささいな事件だが)との関係をこと細かにこれほどまで鮮やかに描き切るということは、プルーストでなければ誰がなしえただろうか。この重要なもっとも筆力を堪能できる見世場で「挫折」するようなら小説など読む資格はない。

そしてまた、その後に続く祖母の死、そこへ到る病状の変化、医者というものに対するシニカルな見方も含め、プルーストが腕によりをかけて描き上げた、前半では最もエキサイティングな場面である。ヴィルパリジ夫人のサロンのシーンは据え置きカメラで長回しの感じなのだが、祖母のシーンは細かくカット割りをして息もつかせず臨終へなだれこむ。見事としか言いようがない。

by sumus2013 | 2018-08-19 20:38 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by 高遠弘美 at 2018-10-07 20:59 x
雑事に紛れて気がつきませんでした、申し訳なく存じます。すばらしい書評、まことにありがたく存じます。「この重要なもっとも筆力を堪能できる見せ場で「挫折」するようなら小説など読む資格はない」といふお言葉に背筋がまつすぐになりました。これほど力強いお言葉、本当に忝く存じます。ありがたうございました。伏して感謝申し上げます。
Commented by sumus2013 at 2018-10-08 07:54
小説を読む深い喜びを感じました。高遠様のひとかたならぬご苦心を思いつつ、今後の巻も期待しております。
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