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佐藤溪詩画集 どこにいるのかともだち『佐藤溪詩画集 どこにいるのかともだち』(湯布院美術館、一九九三年五月一日)を頂戴しました。御礼申し上げます。今年(二〇一八)二月から三月にかけて大分県立美術館で「歌心と絵ごころの交わり 二豊路漂泊の画人佐藤溪と俳人種田山頭火」という展示があったとのことで、ちらしが挟まれていた。 湯布院美術館は、高橋鴿(はと)子さんの情熱によって、一九九一年に佐藤溪の作品を展示する目的で開館、二〇一二年三月閉館。その後は別府の聴潮閣のなかに佐藤溪美術館として再開したが、こちらも二〇一五年一二月に閉館している。その経緯については下記サイトに詳しいのでご覧いただきたい。佐藤溪の作品画像も見られます。 絵と言葉、そして放浪 佐藤溪 佐藤溪については洲之内徹を通してしか知らなかった。本書の巻頭にも「気まぐれ美術館」から抜粋された洲之内の文章が掲載されており、佐藤溪の作品と生涯がおおよそ理解できるようになっている。初出は『芸術新潮』、単行本では『セザンヌの塗り残し』(新潮社、一九八三年)と『さらば気まぐれ美術館』(新潮社、一九八八年)にそれぞれ「湯布院秋景」「モダン・ジャズと犬」と題されて収録されている。 それを紹介してもいいのだが、ここでは洲之内徹『芸術随想しゃれのめす』(世界文化社、二〇〇五年三月一日)から「画廊から」(現代画廊の案内状に書かれたエッセイ)の「佐藤溪」を引用してみる。 麻生三郎に佐藤溪遺作展開催を約束して湯布院へ遺作を見に行った(その様子を描いたのが「湯布院秋景」)。しかしうまく書けなかった(しかし読んでみると、洲之内らしく良く書けている)。 《佐藤溪は昭和三十五年に四十二歳で死んだ。短い生涯だし、作画生活も長くないが、その生活は変幻きわまりなく、大本教本部の中の別棟の部屋をもらって、そこの機関紙の表紙の絵を描いているかと思うと、神戸のどこかのガード下に住んでいたり、東京の京橋公園の中に手作りの箱車を置いてその中に住んでいるかと思えば、突然そこから姿を消して、長い放浪の旅に出てしまったりする。死んだときも、放浪の途中、沼津で倒れ、湯布院の、弟の和雄氏に引き取られて、そこで死んだのだった。この人の足跡を追うだけでも容易なことではない。》 《だけでなく、佐藤溪の残した仕事というのが、これまた到底一筋縄では行かないのだ。何とおりもの性質の異なる作品群があり、それぞれがそれぞれに一つの世界を作っているが、そのどれを、これが佐藤溪の世界だと言っていいか分らない。》 《そういうことを今年の「芸術新潮」一月号に、私はまた書いている。すると、それを読んだ緑川俊一君が、作家の生理ということを言った。なるほどそうか、と私は思った。作品の中にまず作家の思想を見ようとするから分らなくなる。しかし、その私の眼にもこの作家の生理は最初から見えているのだ。よし、これで行こう。遺作展をやる踏んぎりがここでついた。》 洲之内徹が「頭」で絵を見ようとしていたことがよく分る文章である。 《少年時代に川端画学校へ行っていたという彼はなかなかのデッサンの名手だ。日常市井の風物に強い愛着を持っていたらしい彼は、井上長三郎をして「長谷川利行の戦後版」と言わしめるような、哀切な詩情と生活感に溢れる作品をたくさん描いている。しかし、そういう仕事と、例えばここへ図版にして出したこの「蒙古婦人」のような油絵とは、どこでどうつながるのか。困りはてて、正直言って私は油絵から逃げたのだ。》 油絵が分らなかった、頭で考えたから。しかし思想でなく生理の側面から見ればそれが分った(ような気になった)。「生理」というのは、言い換えれば「理屈じゃない」ということだろう。 本書から小生の好きな佐藤溪の作品をいくつか引用してみる。 長谷川利行をたしかに少し起想させるところはある(佐藤自身も意識していたか?)。けれども、利行のような対象にガッチリ食い込んだ感じはないし、デスパレットなところもない。もっと繊細でナイーフだ。どちらかと言うとロベール・クートラスに近いように思う。 とにかく油彩でも水彩でも色が美しい。フレッシュな色の出し方、一見、濁ってうす暗い画面においても、その色感は生きていて、細部まで輝いている。これは実物を見てみたい。洲之内徹のコレクション展にも出ていたはずなのだが、記憶に残っていない。 佐藤の文章は絵ほどは買えない。それでも面白味のある作品には違いない。なかでも「小伝」がいい。全文はこちらからどうぞ。
by sumus2013
| 2018-07-30 21:09
| 古書日録
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