林哲夫の文画な日々2
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須賀敦子の手紙

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メリーゴーランド京都は子供のための本屋さんだが、大人の本も置いてある。そのチョイスがいつも素晴らしいなと思う。皆様も御存知のように新刊はほとんど買わない人間である。メリーゴーランドにも扉野古本棚があって、そちらは折りに触れて覗いているのだが。しかしながら、個展をやらせてもらう際には必ず何か記念として新刊を一冊は求めることにしている。よって今回はこの『須賀敦子の手紙 1975―1997年 友人への55通』(つるとはな、二〇一六年九月三〇日三刷、アートディレクション=有山達也)を選んだ。

須賀敦子が親友だったスマ・コーン、ジョエル・コーン夫妻へ宛てて二十二年間に送った五十五通の手紙や葉書をカラー図版として復元している。活字にも直されているが、図版の鮮明さもあり、須賀の筆蹟で読むのがなんとも気持ちのいい経験だ。

巻末に収められた「姉の手紙」でコーン夫妻から須賀の手紙のコピーを送られた北村良子は次のように書いている。

《姉があんなにのびのびと書いている手紙は読んだことがありませんでした。構えないで書いていて、しかも姉らしさが全体にあふれていて。読み終えたときには、ただただ感無量でした。
 わたしにはなんでも話してくれた姉でしたけれど、それでもわたしに話せなかったことも当然あったんだな、かわいそうだったな、とおもいました。でもそれをコーンさんご夫妻がうけとめてくださっていたわけですから、姉にとっておふたりがどれだけ大切な存在であったか、手紙を読んであらためておもいました。姉がスマさんをわざわざ病院まで呼びつけて、身のまわりの世話をお願いした気持も、手紙を読んで、そうだったのか、とはじめて納得したんです。》

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たまたま個展会場へ来られた方に「この本が面白いですよ」とお勧めしたところ、偶然にもその方は須賀敦子のファンで、須賀の作品はすべて読んだとおっしゃる。「しかしこの本は敢えて読まないのです」と。というのは、本書にも寄稿している松山巖氏が須賀敦子の足跡を辿った本(『須賀敦子が歩いた道』とんぼの本、だと思われます)で彼女の作品における虚構性について書いており、実際の須賀敦子と作品から受けたイメージとのギャップを知りたくないからだとおっしゃる。

小生など、作品なんかどうでもいい(とはいいません、作品がいいから、その人のことを知りたくなる)、その実際の人物像をのぞいてみたいと思う方なので、なるほど、そういうファン心理もあって当然だなとみょうに納得させられてしまった。しかし、本書は、そんな露悪的なものではなく(当たり前ながら)須賀敦子の人柄や嗜好が、そしてその弱さみたいなところも、うかがえる恰好の材料になっていると思うのだ。さらに、直筆なので、読者それぞれが須賀から直接届いた便りを読んでいるような錯覚に陥るというメリットもある。ファンなら必読であろう。

一九九七年の手紙には山崎佳代子さんが登場している。個人的にお会いしたことがある方の名前を見つけるとやはり嬉しいものだ。そのくだりを引用しておく。

《ユーゴスラヴィアは、詩人の山崎佳代子さんで、私たちは共通の友人で結ばれているだけで、まだ会ったことはないのですけれど、二年まえに彼女の詩集を読んで多いに感動し、それは戦争で不意に消えていった友人たちをうたったもので、(一体世界でこうして消え、あるいは消されていく人たちのだれが、私たちの「友人」でないのでしょう)彼女は私の書くものを読んでくれている、そんな関係にあります。絵を描く夫君とふたりでもうずいぶん長いことあの国にいる、大学で日本語を教えているのですけれど、ストライキが続いて「国は病みつづけていますが…日差しが春の訪れを知らせています」とあって、私はふと、イタリアの野に、南ならそろそろ咲きはじめるプリムラを想い出しました。》(一九九七年二月一八日付)

須賀敦子はこのときすでに入院中であった。六月九日に一度退院するが、九月二五日に再入院。翌一九九八年三月二〇日《午前4時半、心不全により帰天、享年69。26日、四谷の聖イグナチオ教会にて葬儀。甲山カトリック墓地に埋葬。》(本書の略年譜より)

須賀敦子の良い読者ではないが、何冊かは読んでいる。もう一度読み直して(まずは買い直して)みたいと思わせる好著だった。

by sumus2013 | 2018-07-23 19:50 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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