林哲夫の文画な日々2
by sumus2013
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凡愚問答

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辰野隆『凡愚問答』(角川新書、昭和三十年十二月十日)。サイン本を頂戴した。深謝です。石崎大人とはどなたか?

新聞に連載されたもののようだが、発表紙が何なのか明記されていない。一回の分量は短いので読みやすい。「百回目」という文言が見えるものの、収録されているのは八十二篇。タイトル通りに毎回、主人と誰かとの問答形式である。例えば「太宰治の死について」。

《老書生は、立春後の寒さを恐れて、今日も炬燵から離れない。「永遠の炬燵か」といいながら心やすい間柄の教育家が部屋にはいって来て、これも炬燵にもぶりこむ。「何を読んでるんです」と訊ねる。老人は、太宰治の「如是我聞[によぜがもん]」を黙って、さし出す。
ーー変なものを読んでますね、そろそろ黴が生える時分に。由来、太宰にしろ、武田麟太郎にしろ、織田作にしろ、揃いも揃って、フランス文学畑で、三人とも中途退学組ですね。例外なく、薄志弱行の輩だ。あなた方の教育がよろしくなかったのでしょう。責任がありますね。
ーー彼等がいずれも中退して、卒業まで辛抱できなかったことが、実は、我々の教育が如何に厳正であったかを立証するものだ。フランス文学以外の学科では、平凡無為の学生たちがすこぶる楽々と卒業するのに、一度我等の道場の秋霜烈日のディスシプリンの下に置かれると、彼等三者のごとき相当の秀才でも、居たたまれずに逃げ出した、と認める方が正しい見方だ。

仏文中退と作家としての大成には直接の関係はあまりないような気もするが……。太宰の自殺に話は移る。

ーー桜上水に飛び込んだのでしたね。
ーーその上水の地下水がうちの井戸にも流れて来ているらしいので、太宰心中の当座は、ふだん旨い水も、何となく生臭いような気がして、気味が悪かったよ。間違って肥溜めにでも落ちてくれると、肥料[こやし]になったろうに。要するに、心中は、思想の問題でも、感情の問題でもなく、その時の神経の問題だろう。

ちょっとこれは酷な意見ではあるが、《何となく生臭いような気がして、気味が悪かった》というところにはリアリティがある。これこそ《神経の問題》ではないだろうか。

日本語のうまい外人という話題も面白い。二回続き、「カンドー神父と盆丸氏」と「失敬しました」。辰野が挙げているのは、まず石神井神学校の校長カンドー神父、イタリー大使館のガスコ、フランス大使館のガロワやボンマルシャン。そして母親が日本人(仙台藩士の娘)だったブリンクリー君は《明治時代の、かって在りし我等の調べを》持ったしゃべりっぷりだったそうだ。アテネ・フランセーの教師マレスコ君も達者なものだった。《落語も衰えたもんだなあ。この頃の「しか」の話しっぷりの拙さ加減たら、箸にも棒にもかからねえや》などという調子だったそうだ。

あとがきから少し引用する。辰野、意外にも、中学生時代にはスポーツに明け暮れて学科には全く興味がなかった。

《文学に興味を持ちはじめたのも、高校の二年になってからだから、既にスタートが後れていた。文学が好きになっても、物を書きたいという野心は全く起らなかった。ただ多く読みたい熱意をその頃から抱いて、それが今まで続いているわけだ。今でも頼まれたり、すすめられたりすれば、書くが、書いた後で、たのしいと思ったことはほとんどないな。やっぱり、読むだけで生計が立てば、読んでいたいと思う。それだけなら極楽だ。》

極楽、極楽。



by sumus2013 | 2018-07-08 20:46 | 古書日録 | Comments(0)
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