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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


青うめや

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小暑向きに何かと思って探してみたら、あまりぱっとはしないが、青梅の短冊が出てきた。鱗馬・・・

七夕と言えば、近刊の『本の虫の本』に七夕について書いた。一部を抜き出してみる。

《ご存知のとおり、ふみづき(ふづき)は七月の別称です。七月と言えば、七夕祭り。短冊に願い事を書いて笹につるします。少し古い時代には、歌や字を書いて書道の上達を祈っていたそうです。そのため七月が文月と呼ばれるようになった、という説もあるくらいです。もっと古くには短冊の代わりに梶の葉が用いられました。
「あきのはつかぜふきぬれば、ほしあひのそらをながめつつ、あまのとわたるかぢのはに、おもふことかくころなれや。」(1)
 カジノキの葉は「単葉で互生し、葉身は左右が不揃いな卵形、あるいは3〜5深裂するものがある。長さ10〜20cm、幅7〜14cm。質は厚く、縁にはやや細かく鈍い鋸歯がある。」(2)とのことですから、願い事をしたためるにはころあいのサイズになります。》

《現代の私たちは、よほどのことでもないかぎり、葉っぱを紙の代わりに使いはしませんが、言葉としては(あ、ここにも葉が!)今もふつうに使ってますよね。まずは、ページ一枚のことを「葉」と呼びます(4)。これは英語(leaf)でもフランス語(feuille)でも同じです。フォリオ(5)というのもラテン語の植物の葉(folium)からきています。
 時の移ろいとともに、文月は葉月(はづき、旧暦八月)へと名前を変えます。語源の穿鑿はちょっと脇へおいておくとして、文字面通りには「テキスト月」から「ページ月」へ。なんとも読書の秋(6)にふさわしいネーミングではないでしょうか。》

(1)『平家物語』高橋貞一校注、講談社文庫、一九七二年、巻一「祇王 妓王」。「秋の初風吹きぬれば、星合の空を眺めつつ、天の戸渡る梶の葉に、思ふ事書く頃なれや」。七夕は秋の季語です。
(2)『樹皮・葉でわかる樹木図鑑』菱山忠三郎監修、成美堂出版、二〇一四年。カジノキは和紙の原料としても用いられます。コウゾ(楮)はカジノキとヒメコウゾの雑種だということです。いずれもクワ科カジノキ属。
4)『字統』(平凡社、一九九四年)によれば、古く中国では、すべて薄いものを「葉」と言ったようです。また諸説ありますが、「言葉」は葉と関係はなく「こと(言)のは(端)」、『万葉集』の「万葉」も「万世」(よろずの世代)だと考えられています。
(5)フォリオにはさまざまな意味があります。印刷用紙を二つ折りにして四頁となった大型の印刷物、四頁分印刷した一枚の用紙、三〇センチ以上の大型本など。
(6)昭和二〇年代に日本出版協会などが開始したキャンペーン「読書週間」から「読書の秋」というイメージが定着しました。韓愈「符読書城南詩」にある「時秋積雨霽/新涼入郊墟/燈火稍可親/簡編可卷舒」との関係もよく説かれますが、魏志・王粛伝には「讀書当以三餘/冬者歳之餘/夜者日之餘/陰雨者時之餘」とあって、読書するには冬、夜、雨がもってこいだと書かれています。暑い夏が去り、秋になってようやく本を開ける気持になり、じっくり読書に親しむのは冬、炬燵のなか(暖炉の前)ということなんですね。

といった感じでウンチク垂れてます。

『本の虫の本』(創元社)近刊

by sumus2013 | 2018-07-07 20:25 | 雲遅空想美術館 | Comments(0)
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