林哲夫の文画な日々2
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亜剌比亜綺譚ヴァテック

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ウィリアム・ベックフォード『亜剌比亜綺譚ヴァテック』矢野目源一訳、生田耕作補訳・校訂(奢灞都館、一九八八年四月)の裸本。古書ヘリングの表の均一にて。本来は函が付いているはず。

いくら裸本でも、この本が均一とは、と思うのだが、実は日比谷図書館の廃棄本。ハンコやシールがベタベタ。

東京都立日比谷図書館は明治四十一年開館、昭和二十年の空襲で全焼したが、再建された。二〇〇九年に東京都から千代田区へ移管され、二〇一一年一一月四日に千代田区立日比谷図書文化館として開館している。

……ということだから、移管時に蔵書の整理が行われ、この本はあえなく廃棄となってしまったわけだ。念のため千代田区立日比谷図書文化館で『ヴァテック』を検索してみるとボルヘス編『新編バベルの図書館3』(国書刊行会)にスティーヴンソン、ダンセイニらとともに収められている(当然ながら奢灞都館版はヒットしない)。

どこをどう辿って京都岡崎まで流れて来たのか、不思議と言えば不思議、古本の世界ではよくあること、と言えばよくあること、か。

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生田耕作は、本書巻末の「「牧神社」版 校訂者解説」を読むと、矢野目源一への興味から本書を評価しているように思える。

《すぐれた先人の苦心になる名訳が、時間的経過というたんなる外的理由によって、深く優劣を比較検討することなく、図書館の片隅にいたずらに埃をかぶったままで放置される矛盾は一日も早く改められたいものである。》

残念ながら本書は図書館の片隅で埃をかぶる機会さえ失ってしまった。埃をかぶっても図書館に架蔵されつづけるということは大きな意味を持っているはずなのだが……。

《仄聞するところによれば、昭和のはじめ、長マントをはおって、腰には短剣を吊るし、東京の巷を闊歩して衆人の目を見はらせたという、ベックフォードの系列につながる奇人伝中の人物、幻庵居士矢野目源一の〈イキ〉姿を今に偲ばせる、見事な訳文をも併せ堪能していただければ幸いである。
 今では古書店でもみったに見かけなくなった、同じ訳者による他の業績、『吸血鬼』『古希臘風俗鑑』(マルセル・シュオブ作)、『ド・ブレオ氏の恋愛行状』(H・ド・レニエ作)等の旧刊書も再び甦ってもよい時期であろう。それにしても予告されたまま刊行に至らなかった、エリファス・レヴィの『魔法史』、ライムンド・ルルリの『愛経』をはじめとする、数々の奇書の訳稿はいまいずくに眠っているのか。》

本書の底本は春陽堂文庫版(一九三二年)である。奢灞都館なき今、その再刊の遺志を継いでいるのが書肆盛林堂だということは明らかであろう(山田一夫の例でも分かるように)。書肆盛林堂より最新刊が届いた。『我もし参謀長なりせば』。これまた珍品。

《海野十三、大下宇陀児、甲賀三郎、蘭郁二郎、渡辺啓助、探偵作家の大家五人に、「科学知識」編集部が、昭和十四年に勃発した欧州大戦に、それぞれ『獨逸側』『英佛側』の参謀総長の立場を選ばせ、指揮をとらせて各々勝利へと導くにはどうすればいいか? と誌上での作戦をたてさせた本連作。その奇妙・奇天烈な作戦は、まさに科学探偵小説。ここに、全作を完全覆刻する。》

……たしかに奇天烈というか、ちょっと笑っちゃいます。



by sumus2013 | 2018-05-30 21:16 | 古書日録 | Comments(0)
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