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林哲夫の文画な日々2
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初稿 配偶

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山田一夫『初稿 配偶 山田一夫モダニズム小説集 弐』(片倉直弥編、書肆盛林堂、二〇一八年四月三〇日)読了。あまり堅苦しいことは考えず、ゆるゆると小説を読む愉しみを得た。文学好きとしては、以前も書いたことだが、自分だけの作家を持つということが、何にもましての悦びとなる。忘れ去られた作家、しかも、時を経てなお、捨て難い魅力を発している書き手。そういう目的があれば、古書探求にも熱が入る。

山田一夫もそういった忘れられた作家の一人だったのだろうが、生田耕作らが『耽美抄 山田一夫作品集』(一九八九年)を刊行して以後、事情は変わったようで、目下の古書価は相当なものである。書肆盛林堂の「山田一夫モダニズム小説集」(壱、弐)はそういう意味でも意義深い出版だ。とは言え、部数が少ないので、これもまた希書となろう(むろん壱は売切)。

山田一夫『初稿夢を孕む女 山田一夫モダニズム小説集 壱』(書肆盛林堂、二〇一五年)

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正直、小説そのものは、偏食の永井荷風に厚遇され、苦労人の川端康成が無視したということで(作風はむしろ川端に近いか)、ほぼそのクオリティは想像してもらえるかと思うが、なかなかの手練でありながら篩の目に残らなかった理由もそれなりに理解できる。忘れられなければ、掘り出す愉しみもないわけで、それもまたよし。

文中に喫茶店がいろいろ出ているのがモダニストらしく、小生としては有り難い。ユーハイム、ホンジョー(本庄)、富士屋(不二家?)、モナミ、万茶、きゅべる(きゅうぺる)。神田の古本屋街も贔屓だったようだ。

特に「四次元瞥見記」(初出『新科学文芸』昭和六年三月)に登場している書斎には興味を惹かれた。主人公は友人に誘われて、ある第二号の女性K子の家を訪問する。

《建築の様式は印度サラセンとローマネスクとスペイン風との巧みなコンビネーションだった。サロンは二十畳ばかりの室で、古風なランプが点してあった。(尤もランプの灯は電燈だった。)》

《ピアノの隣に蓄音器があった。蓄音器はラジオと一緒にしたもので、別に短波の受信機があった。レシーバーを耳に当てゝみると、何か話して居るのが、聞えたが英語でもなく仏蘭西語でもなかった。
「これはハバロフスクで放送して居るものをモスクバで中継して居りますのよ。ラジオドラマのようですわね。」
「そんなに遠いのが聞えるんですか。」
「えゝ、これでざっと世界の半分は聞えるって云うんでございますわ。」
 サロンの壁にはヴン[ママ]・ドンゲンやマリー・ローランサンやマティスなどの油絵の額が懸けてあった。サロンの隣にレコードの室があった。そこには八千枚ばかりのレコードが声楽と器楽の二種類に分けてあった。その隣に書斎のような室があった。書架の半分は小説や脚本などで、その他は全部世界各国の美術の本だと云うことだった。絵画や彫刻や工芸品や建築などの写真帳や精巧な複製などであった。この室と寝室と浴場は四ツ目風につなぎ合してあった。》

さらに寝室、化粧室、浴場の描写が続いて、厨房はというと、こんな感じなのである。

《厨房は殆んど全部純白だった。電気冷蔵庫があり、電気乾燥機があり、時計仕掛のセルフクッカーもあった。》

谷崎潤一郎の豪邸も連想させるわけだが、このような現在とほとんど変わらぬ生活をしていた富裕層が昭和ヒトケタには存在したのだろうか? 実際、巻末の解説のひとつ、善渡爾宗衛「幻華堂 山田一夫の住まい」によれば、山田孝三郎(本名)は昭和四年に京都市下鴨に本邸を建設している。設計したのは「聴竹居」(下記案内参照)で知られる藤井厚二である。

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《山田邸は、木造住宅を得意とする藤井が、あえて新日本様式の鉄筋構造でつくった住宅のうちのひとつである。庭園は飛石林泉風のもので、その一隅には、「寸法録」の著者で蝸牛庵(幸田露伴ではなく)こと廣瀬拙齋の指導により茶室「麗日庵」が設けられている。》

《山田孝三郎の京都市下鴨の本邸は、昭和四年のうちに建てられた鉄筋コンクリートの住宅として、大沢徳太郎邸とともに、『鉄筋混凝土の住宅』昭和六年A3変版、和装袋綴、田中平安堂から刊行されている。》

「四次元瞥見記」に描かれている邸宅とは少し違っているようではある。四次元というのだから、現実の三次元にはまだない、理想の邸宅ということなのかもしれない。それを、山田は、この和風でありながらも、きわめてモダンな出来たてホヤホヤの住宅で夢想していたのであろう。

初稿 配偶 
―山田一夫モダニズム小説集 弐 ―


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聴竹居 -藤井厚二の木造モダニズム建築-
2018年5月12日(土)〜 7月16日(月・祝)

竹中大工道具館1Fホール
https://www.dougukan.jp/special_exhibition/chochikukyo


by sumus2013 | 2018-05-08 20:25 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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