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中村三千夫氏を憶ふ『古書月報196』一九六八年九・十月号(東京都古書籍商業協同組合)を某氏より頂戴しました。深謝です。ここに中村書店・中村三千夫の追悼文が収録されている。 「中村三千夫氏を憶ふ」第五支部にんじん生。 《ちょうどあの終戦の日を思わせるように夏の陽が外にかがやいていた。店には客が一人もいない。暑さ凌ぎに書を少しやろうと墨をすり始めると電話のベルが鳴る。受話器をとると山王書房主人の声「中村さんが市場で倒れて死去されました。」その声が落付[ママ]いて耳につたわってきただけに山王さんが悲痛に堪えていることが分かった。》 《ベレー帽をかぶりついといつも店の文学書の並んでいる側の入口から入ってぴょこりと頭を下げ「今日は」といった面影がうかぶ。静かではあったが商売にかけてはきびしかった人のまなざしがちらつく。もう死んだということがとおくかなたのできごとに思える。どうしても現実とは信じられなかった。それが幼い子が「お父ちゃんは眠っているのになぜ焼くの。焼いてはいやだ」という言葉を聞かされて身をせめられるような死という現実を見せつけられた思いがした。》 この文章に続けて、にんじん生の「中村三千夫氏を悼む」短歌が八首、元第五支部の甘露生の「中村三千夫君哀悼」短歌六首。にんじん生より三首。 亡きがらを焼くを拒みし幼子の言葉 炎如し身に迫りきぬ ベレー帽ふさへる君が面影を追へば 消えゆく夏ふけにつつ 土にかへれる君を思へば土に置く 草の夕かげまた静かなり 甘露生より一首。 ベレー帽かぶりし君の面影を電柱に とまりて鳴ける蝉に追ふ 最後に第七支部木内茂「在りし日の中村さんを想う」の一文がある。 《静かな控え目な方で、威張ったり気負ったりする事を極度に嫌い、穏やかな心暖い豊かな方でした。そのゆえに何時でも貧しい者に心を寄せ、物質的にも精神的にも指導されたと聞いております。 中村さんのそういう優しい姿勢は自分一個の力で生活し、生きぬいた人生経験から生まれたのだと思います。 中村さんは円満な家庭とみんな貧しいけれど心を許せる数多くの友人を持っていました。本当に惜しい方を失いました。》
by sumus2013
| 2018-04-02 20:22
| 古書日録
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