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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


imitation pearl 3

阿瀧康『imitation pearl 3』(二〇一八年四月)を頂戴した。深謝です。

《・『imitation pearl』(2006年3月 空とぶキリン社)以降に詩誌「ガーネット」に載せたものを、ほぼ制作順に並べました。2010年に「ガーネット」同人を退いているので、4年間の作品ということになります。但し巻末の「春夏秋冬」は、昨年書きました。
・2011年にコピーを綴じた『imitation pearl 2』を15部作って、「ガーネット」在籍時に特にお世話になった方にお渡ししましたが、本集は、その改定版です。作品の増補・差し替えをし、また各編に手を入れました。
・情けないことに、私のミスで、30ページ目がダブッてしまいました。このままでお送りするのはたいへん恐縮なのですが、ご笑覧いただければ幸いです。
  35部作成  2018年4月》

かつて阿瀧氏の詩集『ボートの名前』(詩学社、一九九八年)を頂戴したことを思い出す。小ぶりな、表紙にタイトルしか書かれていない、なんともそっけない造りだったが、かえってその潔い体裁に魅かれて、もちろん詩も好きなのだが、今も書庫に保存している。

この度は、A4判で、タイトルすらない。一昨日の古書目録は表紙で間違っていたが、表紙に文字がないので間違いようはない。ところが本文のページがダブっているという。誤植の魔。ただ、もし付箋が付いていなければ、ひょっとして、これは阿瀧氏の詐術ではないのか? と疑る、いや、疑りさえしないかもしれない。

阿瀧氏の詩はいい意味で理屈っぽい。そしてその理屈をヒョイヒョイと曲げて別の理屈へつなげてしまう、この手際には詩を散文や小説のように読ませる力がある。引用するのは氏の典型的な作品というわけではないかもしれないが、氏らしい書き振りは十分出ている。何より古本屋が登場する(氏はとびきりの古本者でもある)。「東京吟行録」より「6 千歳烏山」の全文。


  6 千歳烏山

あまり書くこともない
最近は降りていないから想像も入る
ここは東西に線路が深く走っていて
車だと通り抜けるのが骨だ。

駅の南側から道路はY字に別れていく
別れてすぐのところに古本屋があった
二軒あった その一方で
二十年近く前に買った詩集はよかった(さすがにスギナミ区は違うな、と感心した)。

誰の詩集かは書かない
もう処分してしまったし
二軒の古本屋のうち一軒は神保町に移転
もう一軒はずっとシャッターが降りたままになっているはずだ。

駅の北側には以外[ママ]にも大きな広場がある
それがちょっと街の雰囲気をつくっていた
風と人が動いたり止まったり 植えられた木々の葉が落ちたり
犬が斜めに走り抜けたりした(あああ)。

その先に 線路に平行に甲州街道(というより、甲州街道の方が昔からあった訳だ)
それは細い旧道で、そのもう一本北に
あたらしい甲州街道が通っている
片側三車線、いつも通るのはそちらだけれど緩やかな坂が長く長く続く。

本当に書くことがなくなった
最後は引用だ
「今日も八重桜。もう散り始めていて、車の往来のはげしい甲州街道のかたい路面のうえをたくさんの花びらが舞っていた」
とおい街というものがあるんだ。


参考までにと思って「イミテーション・パール」を検索してみた。するとこんなことが書かれているサイトがあった。この作品集に結びつける意図は一切ないので誤解のなきよう。

真珠の知識を身につけていくうちに、イミテーションパール(人工真珠)が悪いと思っていた自分が間違いであったことに気づきました。イミテーションパール(人工真珠)は、単なる模造品ではなく、それに携わる人々は真心や情熱を持って作っておられるのです。人造だから粗悪な品質という考えは捨て、私達がTPOに合わせて使い分ければ、パールネックレスの楽しみ方がもっと広がるのではないかと思います。



by sumus2013 | 2018-03-26 20:45 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by 阿瀧です。 at 2018-03-27 09:33 x
ご紹介ありがとうございました。
うれしいです。

Commented by sumus2013 at 2018-03-27 13:36
阿瀧さんの作品、好きです。書き続けてください。
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