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林哲夫の文画な日々2
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人と会う力

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岡崎武志『人と会う力』(新講社、二〇一八年二月二六日、カバー・本表紙イラスト=著者、装丁=ロコ・モーリス組)読了。

人と会う力

還暦を迎えた岡崎武志のすべて(!)がここに集約されている、というか神の滴みたいな岡崎エキスで満たされた一冊と言い換えてもいいだろう。

《この本は、本編にも名前が登場する編集者で作家の坂崎重盛さんと、神保町の酒場で飲んで話したことがきっかけで生まれた。私は忘れていたが、もろもろ話していた時に、「ぼくは人と出会うことで、これまでの道を切り拓き、いい仕事に巡り会ってきた。人と会うことで作られた男なんです」というようなことを坂崎さんに言ったらしい。たしかにそうだし、今でもそう思う。ほんの、酒場での気負った戯れ言のような発言であったが、坂崎さんは聞き逃さず、「それ、一冊、本が書けるんじゃないですか」と返してきた。》

《自分が幸福か不幸であるかと問われれば、人に「会う」ことについては、幸福だったとしか言いようがない。自分のことを書きつつ、さまざまな「会う」バリエーションを考え、先人たちの例を挙げることで、貧しい体験を補強してみた。

はげしく同感したのは「『坊っちゃん』はダメである」の章。

《人生のいろいろな局面で、人と「会う」ことを大切にするなら、ぜったいに「坊っちゃん」を真似してはいけない。なぜなら、この若者は、ことごとく「会う」機会を拒否し、避けて通っているからだ。

坊っちゃんはサイテーな奴だな、と前から思っていた。どうしてこの小説が読まれるのか、気分が悪くなるような作品ではないか。漱石研究者ならば、ここに漱石の挫折の深刻さを読み取れるかとも思えるが、この小説を書くことが漱石のうっぷんばらし(カタルシス)になったとしたら、当時の漱石は相当に病んでいたと思う。

《こういう人物が、自分の会社、あるいは学校で同じクラスにいてごらん、果たして尊敬できるだろうか。「こいつ、バカじゃないか」と思うのではないか。
 『坊っちゃん』は、作品の出来としては素晴らしい。しかし、人間としては欠陥が多過ぎる。人と親しくなるためには、すべて「おれ」がやったのとは逆のことをしなくてはならない。

小生は、作品の出来についても疑問を持っている。駄作の多い漱石のなかでもつまらない部類に入るのが『坊っちゃん』という気がしないでもない。ひょっとして『猫』みたいに何かヒントになった先行作品(イギリスの諷刺小説とか)あるのかもしれないが……。晩年の漱石はこれが一番気持良く読み返せた自作だと弟子に語ったらしい。そういう意味では『坊っちゃん』に漱石の本音がストレートに現われているのは間違いないようだ。漱石は「おれ」みたいになりたくて、でも結局そうはなれなかった、ということなのかもしれない。

思わず脱線、失礼。『坊っちゃん』だけじゃない、他にも「男はつらいよ」やディック・フランシスの競馬シリーズ、笑福亭鶴瓶、キャロル、ザ・フォーク・クルセダーズ、高田文夫、鮎川信夫などなど、自家薬籠中の話題で「出会い」の機微を説いて行く。岡崎エキスと書いたのはこのためである。

いちばん最後のところに置かれた「小沢昭一さんに会えてよかった」、なんともスリリングな、しかし、いい話。人はすべからく、こうありたいもの。

《これから先、どれだけのことがやれるだろう。無力、無学を自認してきたが、何もなければ、何もできてこなかっただろう。支えてくれた人たちのおかげもある。そのことに、素直に、深く感謝したい。》(「『還暦』の会 感謝の言葉」より)



by sumus2013 | 2018-03-07 20:34 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by 岡崎武志 at 2018-03-09 00:54 x
いつもながら、拙著、ご紹介いただき、ありがとうございます。『坊っちゃん』の反応、驚きました。そうですか。もし、この本が売れて、第二弾が出れば、「ブラケット」「are」「sumus」のことも書きたいと思っています。
Commented by sumus2013 at 2018-03-09 07:32
期待してますよ!
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