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海雲抄平澤一『海雲抄』(龜鳴屋、平成二十三年五月三十一日)。『書物航游』を取り上げたところ、こういう本もありますよ、とお教えいただいた一冊。渋い藍染めの布装になっており、いつも触っている本とは手触りが違う。この感覚をしばらく忘れていた。 身辺を見回してみても紙の本ばっかり。本棚になにかあるだろうと、探してみたが、意外に見当たらない。それでも、掘りに掘って(というほどではありません)、七冊ほど取り出した。漢詩の関係が多いのも偶然ではないのかもしれない。むろん、まだまだあるはずだが、すぐには出て来ない。 『海雲抄』の特装本は奥野信太郎の遺した和服一着から十部作られたそうである。それ以外の二百二十部には六種の布が用いられている(奥付にそう書いてあります)。 内容は、旧稿三篇、新稿四篇から成る。書物に関するエッセイ「徳永先生の手紙」(『リリオム』の翻訳者・徳永康元との往復書簡)、長谷川等伯に関する二篇「等伯の画山水に遊ぶ」「日通上人『龍之図書簡』考」、専門分野の「ダウン症児の笑い」、船舶についての二篇「コンテナ船航海記」「船長は語る」、そして雲の書物史とも言える考察「雲三題」。 「徳永先生の手紙」よりブダペストの古書店について。 《先生は昭和十五年から十七年まで、日本とハンガリーの交換留学生として、ブダペストに留学した。留学中よく訪ねた古本屋は二軒あった。その一つは大学のすぐ近くの横町にあるランシュブルグ老人の店であった。店にはハンガリー語の学術雑誌のバックナンバーが揃っていた。今一つはブダペスト中心街にあるラウフェル書店で、大学と学生寮の中間にあるので毎日のように立ち寄った。地下室の大きな書庫にはヨーロッパ諸国の文学・芸術・歴史などの本があった。終いには、ラウフェル家は家族のパーティにも招んでくれるほど親しくなった。》 本の横積みについて。 《「本の横積みのことは私のように狭い部屋に住んでいる人間は、戦後の生活では、はじめから諦めている次第です。」本は天を上にして背の書名が見えるように縦にならべておけば、一目でみつけることができる。横積みにすると、それができない。記憶している表紙の色や、本の厚さで探さねばならず、手間が掛かる。停年退職して、大学の研究室に置いていた本を家に持ち帰らねばならなくなり、その本をいれる書庫を造った。初めは全部の本を縦にならべるつもりであったが、やはりかなり横積みにしなくては収らなくなった。その嘆きを伝えたことに対する返事であった。私はこの便りで先生も横積みと知り、横積みは仕方がないと諦めがついた。》 これらの他に尾崎一雄、大岡龍男、岩本素白、西郷南洲などに関する話題が二人の間で交わされている。 平澤氏は美術もたいへんお好みのようで、画集や画家(須田国太郎、入江波光)についての言及が『書物航游』にも随所に見られるが、本書では、長谷川等伯についてかなり突っ込んだ鑑賞というか研究を行っておられる。等伯は能登七尾の生まれということから、とりわけ興味をもたれたのでもあろう。医学者という立場から読み解く「日通上人『龍之図書簡』考」は非常に興味深い。 慶長四年(1599)京都の本法寺の本堂が完成した(秀吉に命じられて一条戻橋から小川通寺ノ内上ルに移転)。長谷川等伯はそこに龍の天井画を揮毫したのだが、日通上人の手紙は、その下図を見ました、素晴らしい出来ですな、さっそく足場を作らせますから見に来てください、という内容である。 長谷川等伯に関する資料に曲直瀬玄朔(まなせげんさく、一五四九〜一六三一)の医療記録『医学天正記』と『延寿配剤記』がある。傷寒の項に、等伯(七十余歳)は高いところから墜落して右手が不自由になり、最近、傷寒(インフルエンザ)にかかった、と書かれているそうだ。 医研会通信26号 『医的方』 この玄朔の記す「高きより墜ち」と日通上人の足場を作りましたの記事を関連づけられるかどうかについてこと細かに考察している。平澤氏の結論だけ引用すると、結びあわせることはできない、となる。 「雲三題」も、あまりこれまで注意してこなかった視点に啓発された。ざっと引用されている材料をメモしておこう。このテーマはいくらでも引き延ばせるように思う。 文学の中の雲 ・幸田露伴「雲のいろいろ」 ・森鷗外「雲中語」における幸田露伴「雲のいろいろ」評 ・国木田独歩『武蔵野』 ・夏目漱石『三四郎』 絵の中の雲 ・仏画の中の雲 文殊菩薩渡海図(醍醐寺光台院) 絵因果経(上品蓮台寺、醍醐寺報恩院) 来迎図の雲 山越阿弥陀図(禅林寺) ・絵巻物の中の雲 信貴山縁起絵巻(朝護孫子寺) ・水墨画の中の雲 ・日本画の中の雲 小野竹喬「白雲悠々」他 ・写真集の中の雲 飯田陸治郎『雲』山と渓谷社 山本三郎『カラー雲』山と渓谷社 湯山生[やどる]『くものてびき』クライム気象図書出版部 鈴木正一郎『雲 写真集』講談社 他 雲って、乗り物だったんだなあ……なるほど、觔斗雲もそうだった。
by sumus2013
| 2018-02-20 20:12
| 古書日録
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Comments(4)
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