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世界の風福島あずさ 著、nakaban 絵『窓から見える世界の風』(創元社、二〇一八年二月二〇日)。世界を旅するイラストブックシリーズの最新刊。まさに風に乗って世界を旅する本だ。 関西で風と言えば、まずは、六甲おろし、でしょう(?)。残念ながら、本書では立項されていない。しかし、ちゃんと言及はされている。イタリアのトリエステ、アドリア海沿岸に吹く「ボラ Bora」のところに 《この風はアルプス山脈やアドリア海の北東に位置するディナル・アルプスから吹き下ろす風で、吹いた後に気温が下がって寒くなるのが特徴。日本では六甲おろしに代表される「おろし風」が同じ現象にあたります。》 とある。そういえば、京都にも「愛宕おろし」があった。「嵐山」という地名は愛宕おろしで花々が吹き散らされるからとも言われているらしい。では、この「あらし」は? 《「あらし」とは、現代ではStormの訳語として低気圧や台風などに使われる言葉ですが、日本各地で山から平野、陸から海へと吹き出す局地風にも「あらし」という名がつけられています。》(肱川あらし 日本:愛媛) 十九世紀半ば、悪天候をもたらすものはすべて嵐(ストーム)と呼ばれていたそうだ。そのストームの情報に興味を持ったのが、ダーウィンの乗ったビーグル号の船長だったロバート・フィッツロイ。 《当時、海で起る嵐の情報は船乗りたちにとって大変貴重でした。そこで彼は晩年、世界初の天気予報と暴風雨警報の事業に取り組みます。時代を先取りすることになるこの一大事業は、緻密な気象観測に基づく科学的な見立てを人々に伝えることでした。そのため「予測・予言(プレディクション)」ではなく、「予報(フォーキャスティング)」という言葉を使ったのです。》(アブロホロス Abroholos ブラジル東岸) ストームの他に「ハリケーン」という言葉もある。 《明治時代以前の日本では、強い風は「大風[おおかぜ]」や「野分[のわき]」、激しい雨は「大雨」など、地上の「ある場所」で見られる現象とその被害だけが記録されていました。》《人類が俯瞰の目を手に入れ、初めて雲が渦を巻いている事実に気がついたのです。》 《ハリケーンの語源はマヤ神話に登場する風や嵐の神 Huracán[ウラカン]。世界各地で神々は地上の人間を「俯瞰」してきました。》(ハリケーン Hurricane 西半球:日付変更線より東の太平洋、大西洋、カリブ海、メキシコ湾) おろし風の類語に「だし」がある。 《おろし風の一部が、狭い谷間で強められ、平野や海に向って吹き出す強風で、夏の日本海側で起こります。 これらの風が「だし」と呼ばれるのは、漁師たちが船を「出す」のにふさわしい風だったから。漁師用語には、東風を表す「こち」、南風を表す「まじ」「まぜ」「はえ」、西風や北風を表す「ならい」、南東風は「こちまじ」など、今日あまり一般的に使われない言葉があります。》(だし 日本) こち吹かば・・・ 世界中から集めた風の名前、大半は初めて目にするものばかりなのだが(詳しくは本書にて)、それでも日本語になってしまっているような風の外来語も少なくない。ストーム、ハリケーンはもちろん、シロッコ、ミストラル、ジブリ(本書ではギブリ Ghibli)そしてフェーン現象のフェーン(Föhn)もアルプスの山々から吹き下ろす風の名前だったのだ。 以上、引用したように丁寧で分りやすい説明がいい。また、nakaban のイラストも独特な雰囲気を持っている。どこか懐かしい、世界各地を旅しているはずなのに、ともすると過去へ遡っているような気分にさせてくれる。単純に、四十年近く昔になってしまった、スペインや地中海沿岸の宿屋を思い出させてくれるからかなあ……。それぞれの絵に付された詩のように長めのタイトルもいい。 風が見えるという町がある そう教えられ 特急列車に乗ってやってきた 駅前の大通りに面したカフェに入る 明るくて広い店内に漂うコーヒーの高貴な薫り 水を置きながらウェイターが 窓の向こうを見るよう促した あ 遠くの山を越えた風が 今しも駆け降りてくるところ (フェーン Föhn アルプス山脈)
by sumus2013
| 2018-02-19 19:55
| おすすめ本棚
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Comments(4)
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西ミツ
at 2018-02-19 23:10
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関口武『風の事典』原書房, 1985.2、という書籍があり、風の名称なども載っていたと思います。
引越の折、手放してしまったので、手許にないので詳細はお伝え出来ずすみません。 尚、市立図書館の所蔵状況は以下の通りです。 ・中央 参考図書 持出禁 利用可 ・右京中央 参考図書 持出禁 利用可 ・醍醐中央 参考図書 持出禁 利用可 ・醍醐中央 一般図書 利用可 検索結果にリンク出来ないのであしからず
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西ミツ
at 2018-02-19 23:39
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sumus2013 at 2018-02-20 08:57
関口武『風の事典』、古書価もなかなかですね。いずれ見つけたいものです。
「比叡おろし」というのは田宮虎彦の小説にありました(昭和28年)。『足摺岬』に収録されているようなので、読んだはずですが、まったく失念していました。松岡正剛さんの曲とは関係はなさそうです。
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吾唯足知(吉呼員和)
at 2024-09-01 13:25
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≪…「比叡おろし」
作詞・作曲:松岡正剛…≫ありがとうございます。 心からお悔やみ申し上げます。 「初めて語られた科学と生命と言語の秘密」の[ヴィークル]概念に昭和歌謡本歌取りを献歌したい。 「愛のさざなみ」の本歌取り [ i(アイ) のさざなみ ] この世にヒフミヨが本当にいるなら 〇に抱かれて△は点になる ああ〇に△がただ一つ ひとしくひとしくくちずけしてね くり返すくり返すさざ波のように 〇が△をきらいになったら 静かに静かに点になってほしい ああ〇に△がただ一つ 別れを思うと曲線ができる くり返すくり返すさざ波のように どのように点が離れていても 点のふるさとは〇 一つなの ああ〇に△がただ一つ いつでもいつでもヒフミヨしてね くり返すくり返すさざ波のように さざ波のように [ヒフミヨ体上の離散関数の束は、[1](連接)である。] (複素多様体上の正則函数の層は、連接である。) 数学の基となる自然数(数の言葉ヒフミヨ(1234))を大和言葉の【ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・こ・と】の平面・2次元からの送りモノとして眺めると、[岡潔の連接定理]の風景が、多くの歌手がカバーしている「愛のさざなみ」に隠されていてそっと岡潔数学体験館で、謳いタイ・・・
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