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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


アリストフィル・コレクション

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フランスのオークション・ハウス、アギュット(AGUTTES)が今月二十日から行うオークション『アリストフィル・コレクション LES COLLECTIONS ARISTOPHIL』のカタログを某氏より頂戴した。

LES COLLECTIONS ARISTOPHIL

アリストフィルというのはジェラール・レリチエ(Gérard Lhéritier)が設立した会社で、この人物は以前このブログでも紹介した「書簡と原稿の博物館 Musée des lettres et manuscrits」の設立者でもある。自筆ものの値段を急騰させた人物として知られる。この図録を見ながら、そう言えば、前回のパリで「あそこが潰れて、たいへんなのよ」と古書業界の知人に聞いたことを思い出した。そのときは「へええ、そうなの」と聞き流していたのだが、こういう形で散逸することになったわけなのだ。

書簡と自筆の展示館

検索してみるとアリストフィルは二〇一五年に破綻していた。ようやく整理がついて、そのコレクション13万点余が順次競売にかけられることになったようだ。幅広いジャンルに亘る自筆資料など、お宝がたんまり含まれているらしい。

そして、その口切り展示での目玉、それが表紙にもなっているこの巻物。なんと、サド侯爵による『ソドム120日』の原稿なのだとか!

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解説の内容をざっくりと訳しておく。

まずこの原稿の体裁は、33枚の紙をつなぎ合わせた巻物で、幅11センチ3ミリ、長さは12メートル10センチあり、表裏にびっしりと焦茶のインクで記入されている。

サドは一七八四年二月二九日にバスティーユ監獄へ移送された。そこで、二年前頃から手をつけていた『ソドム120日』の清書にとりかかったらしい。サド自身がこの原稿の脇にメモを書き残している。

表側の終りに《この帯[bande]を書くために夜の七時から十時にかけて二十日間かかり、一七八五年九月(7bre)十二日に終了》。そして巻末に《この長い帯の全部を一七八五年十月(8bre)二十二日に開始し三十七日間で終了》と書かれているそうで、ようするに一七八五年の八月から十一月にかけて仕上げたということらしい。この巻物にはオリジナルの収納函があり、それに収められてバスティーユ監獄内のサドの独房の石の隙間に隠されていた。

サドがシャラントン監獄へ移された後、アルヌー・ド・サンマキシマン(Arnoux de Saint-Maximin)なる人物がそれを発見し、ヴィルヌーヴ・トランス(la famille de Villeneuve-Trans)へ売却した。

一九〇四年、当時の所有者であったドイツの精神科医イヴァン・ブロッホ(Iwan Broch)が初めてこの作品を公刊。一九二九年にはノアイユ子爵夫妻(Chales et Marie-Laure de Noaille)が購入し、モーリス・エーヌ(Maurice Heine)に委託した。エーヌは註釈版を出版した(一九三一〜三五年)。

ノアイユの歿後、娘のナタリー(Nathalie)へ受け継がれたが、一九八二年に出版人のジャン・グルエ(Jean Grouet)が盗み出して、スイスの愛書家ジェラール・ノルマン(Gérard Nordmann)へ売ってしまった。ナタリーの息子カルロ・ペロンヌ(Carlo Perrone)が訴訟を起こしたのだが、スイスの裁判所はフランス側の訴えを退けノルマンの所有権を認めた。一時期ジュネーヴのボドメール(Bodmer)財団に寄託された後、ノルマン家とカルロ・ペロンヌとの和解を経て二〇一四年五月にアリストフィルが購入した。

ついでに補足しておけば、マリ・ロール・ド・ノアイユは富裕な銀行家の娘で、芸術の庇護者、画家、文筆家であった。マリ・ロールの母マリー・テレーズ・ド・シュビネ(Marie-Thérèse de Chevigné)がサドの家系に連なるということで『ソドム120日』には浅からぬ縁があったわけである。またマリー・テレーズはプルーストの『失われた時を求めて』におけるゲルマント侯爵夫人のモデルだとされているそうだ。

エスティメイトは「4 000 000 / 6 000 000 €」……。ダ・ヴィンチ「救世主」の例を見たばかり、十億円からの値がつくかもしれない(?)



また、アンドレ・ブルトンの自筆原稿が四点出品されるようだ。

シュルレアリスム宣言 自筆原稿
溶ける魚 自筆原稿
溶ける魚I 溶ける魚II 自筆原稿;学生用ノート[下写真]
シュルレアリスム第二宣言 自筆原稿 校正紙と自筆メモ

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これら四点まとめての予想落札価格は「4 500 000 / 5 500 000 €」・・・これまた驚きである。

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by sumus2013 | 2017-12-05 20:43 | 古書日録 | Comments(0)
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