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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


初期「VIKING」復刻版

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初期『VIKING』の復刻版が出るという話は、昨年、茨木市立中央図書館で「筆に聞いてんか 画遊人・富士正晴」という講演をやらせてもらった日に中尾務さんから聞いていた。どうやらそれが刊行されたらしい。留守中に中尾さんが『初期「VIKING」復刻版 解説/総目次/執筆者索引』(三人社)を送ってくださっていた。深謝です。詳細については下記サイトをご覧頂きたい。それにしても三人社、恐るべき出版社なり。

(株)三人社

海賊たちの破天荒な航海日誌
初期「VIKING」復刻版(1947年〜1953年)

ここに収録されている中尾さんの論考を読み始めて、いきなりこんなところで止ってしまった。

ちなみに、富士は島尾から借りた花田清輝『復興期の精神』ではじめてVIKINGの名を知り誌名としたと回想している(「VIKINGの初めの頃」1967・10『VIKING』202)が、誌名『VIKING』決定の直前に読んだ『復興期の精神』は、富士が義弟・野間宏に依頼、版元の真善美社から送られてきたものである(1947・7・29付野間宛て富士封書。7・31消印富士宛て野間ハガキ)。

真善美社版の花田清輝『復興期の精神』は、つい先日ここで紹介したばかり。ただし我観社版。その第二版が一九四七年二月に真善美社から出た。

花田清輝『復興期の精神』(我観社、一九四六年一〇月五日)

止ってしまった理由はもちろん『復興期の精神』のどこにVIKINGが出ているか捜し始めたからである。目次にはそれらしき名前が見出せない。文章のどこかに登場するのだろうか、これは厄介だ。とにかくそれらしいところをペラペラめくってみる。「楕円幻想」ヴィヨン、「極大・極小」スウィフト、あるいは「汝の欲するところをなせ」アンデルセンか……と思ったが出て来ない。諦め気味にパラパパラっと流していると、コロンブスの文字が見えた、コロンブス=船乗り、これか? と思ったら、出ていました。

アメリカは、ヴァイキングの間では「葡萄の國[ヴインランド]」として、はやくから知られてをり、その最初の発見者は、グリーンランド生れのリーフ・エリクソンだといふので、コロンブスの名聲を眞向から否定しようとする人々がある。》(架空の世界)

かれの空間にたいする愛情は、旋回し、流動する空間、ーー時間化された空間にたいして、そそがれたのではなかつたか。羅針盤は壊れる。しかし、船は、まつしぐらに、虚無のなかを波を蹴つてすすむ。虚無とは何か。檣頭を鳥が掠め、泡だつ潮にのつて、海草が流れてゆく。》(同)

しかし、空間は至る處にある。新しい世界は、至る處にあるのだ。たとへ、それをみいだすために、コロンブスと同樣の「脱出」の過程が必要であるにしても。(同)

うーむ、カッコよすぎる。富士も唸ったに違いない。これなら雑誌名は「コロンブス」の方がよかったかもしれないな、とつまらないことを考えた。しかし、ヴァイキングはコロンブスに先立ってすでに虚無の海図を知悉していた。ならば、やはりヴァイキングに軍配が上がるのか。

by sumus2013 | 2017-07-17 21:27 | おすすめ本棚 | Comments(0)
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