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林哲夫の文画な日々2
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東中野

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『机』第九巻第二号(紀伊國屋書店、一九五八年二月一日、表紙題字=伊藤憲治、表紙デザイン並カット=北園克衛)。編集人も北園克衛である。

少し前に以下のような問い合わせを頂戴していた。

《『喫茶店の時代』 183頁、「女たちの東中野」の見出しで、――

  震災後の中央線開発はまず新宿周辺から始まり、その延長として東中野にはいち早く喫茶店が誕生した。東口に 「ミモザ」「ユーカリ」(「ゆうかり」とも)。中央口に「暫」、線路の右手裏には「夜」があった。

と記述しておられます。これにつき、3件、ご示教をお願い申し上げます。

① 「夜」という店が存在したことは何を典拠とされたものでしょうか。「夜」に言及した文献を探しております。

② 「線路の右手裏」はどちらの方向に向かってのことでしょうか。現在の東京駅(東)、高尾駅(西)方面の、いずれでしょうか。

③ 「中央口」とはどこを指しているのでしょうか。東中野の「中央口」という呼称は珍しいもので、管見では、往時の資料に未確認です。現在の東口、西口の位置関係で具体的に知りたく思います。》

この質問メールをいただいたとき手許に喫茶資料を置いていなかった。なにしろ喫茶店を調べていたのは十五年以上前のことなので、多くの関連書籍は処分し、めぼしい資料も郷里の押入に片付けてしまっていた。つい先日の帰郷で、この質問については失念していたにもかかわらず、たまたま整理中にこの『机』を見つけたのはラッキーだった。

①は上記『机』第九巻第二号「特集喫茶店」の巻頭、井上誠「喫茶店の変遷」である(第二〜五頁)。該当する記述は第四頁に出ている。

②と③については原文をそのまま引用する。『喫茶店の時代』では要約しつつ言い換えてある。関東大震災後から昭和に移る時期。

中央線の入口になる東中野には逸早く喫茶店が出来ていた。駅の東口にはミモザとユーカリ。中央には暫[しばらく]。また線路の右手の裏には夜があった。まだ見すぼらしい林芙美子が、同じような連れと一緒にその夜に来ていたが、間もなくつぶれた。ユーカリのヨッペは東京不良少女の名流で、そこには銀座の老雄雨雀や、北原白秋や大木惇夫が来ていた。また直ぐ卓をひっくり返すので怕がられた畑山という中央線の顔や、ピストン堀口などもいた。

「中央口」と書いたのは誤りで「中央」としてあるだけだった。訂正しておく。「線路の右手」はどちらなのか? これは井上の記述だけでは判断しかねる。内容が面白いのでもう少し引用しておこう。

小滝橋に少し入るとグローリーには戦旗の上野壮夫達、ナップがいた。第百銀行の頭取の養子の野々村恒夫と壮夫とは、友達でそのこ幸ちゃんを張り合っていたが、飲むといよいよ上機嫌になったり泣き出したりする幸ちゃんは、上手に二人を手玉に取っていた。
 やがて東中野にはざくろやノンシャランが出来た。詩王の余波に乗じた詩洋の同人達が次々に開いた店で、ざくろには阿佐谷から井伏鱒二や久野豊彦が来るかと思うと、辻潤の一派がいたりした。まだ東大の学生であった中村地平は酔うと冬でも裸になって防腐剤を塗った屋内の柱を攀じ登り、忍術使のように逆様になって天井の梁を伝わったりした。ルネには小林秀雄の別れた妻君がよく来ていたた[ママ]。「たかりや姫」と言われていたが、誰でも悦んで飲ませた。哀れな者を慰わる気持を、誰しも持っていたのであった。

小林秀雄の別れた妻君」というのは長谷川泰子のことか。結婚はしていなかったはずだ。

by sumus2013 | 2017-04-24 20:56 | 喫茶店の時代 | Comments(0)
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