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私のダダ江原順『現代芸術論叢書 私のダダ 戦後芸術の座標』(弘文堂、一九五九年九月三〇日、カバー構成=河原温)を頂戴した。またまた御礼申し上げます。このシリーズは、以前にも書いたと思うが、小野二郎を伝説の編集者とした名企画である。 先日紹介した 河原温渡墨作品頒布会 の栞が挟まれていたのが『ユリイカ』一九五九年八月号だからメキシコへ出かける直前の仕事ということになろう。「あとがき」にもこのように書かれている。 《この評論集でも、河原温が渡墨前の多忙な時間を裂[ママ]いて装幀してくれた。河原君どうもありがとう。》 後年の河原温を思わせるミニマルな(余計な装飾のない)カバーであり表紙である。ただこの装幀はその後以下のデザインに差し替えられ(作者は分らない。下図は同時に頂戴した複写。同叢書共通)、 さらには加納光於の印象的な作品に統一されることになる。以前取り上げた安東次男『幻視者の文学』(http://sumus.exblog.jp/12342644/)と同じである。 もう一枚複写をいただいているのがこちら。江原順『現代芸術論叢書 見者の美学 アポリネール ダダ シユルレアリスム』(弘文堂、一九五九年六月一〇日)。これも装幀者がはっきりしないが、上に引用した江原の言葉に《この評論集でも》とあるのでやはり河原温の装幀だろうか? 『私のダダ』には「求心の絵画ーー河原温の絵ーー 付 若い画家の冒険」と題された論考も収められている(初出は『美術批評』一九五八年六月)。 《「物置小屋のできごと」「浴室」などのシリーズの他に、「黒人兵」など、いわば「求心的な空間」を造型する傑作を描いてきた河原温は、ある夜突然工房をぬけだした。そして、もう工房にかえらない。完全に閉塞されている空間のなかで、腕をきりとり、足をもぎ、目をくりぬき、できるところまで自分を分解して、この壁を破るほどに強い別の自分を構成しようと考えてきたこの若い画家には、意識された自分の分解と自分の意識の支配のうちにある方法だけでは、この自己の再構成は不可能だと思えてきたのだろう。》 《こうして、かれは、印刷手段を、自己の表現方法として駆使することを思いついた。かつて密室のなかで思いあぐむことに没入したとおなじ熱中のしかたで、かれは印刷工場に通い、金属板のつくり方、印刷インクのねり方、印刷のしかた、原価計算、商品としての売り方の研究に、夜も昼も没頭した。こうして、「人間の絵画」(ロム・エ・リュマン)と題する印刷の絵画の第一作が誕生した。》 《だれにでもできる技術(コラージュの場合も、印刷の場合もだれにでもできる)によって、決して模写できない形象をつくりだす画家を、現代の芸術家と呼ぼう。河原は意識しないで、かつてロートレアモンがいった「ひとりによってではなく万人によってつくられるポエジーを」日本で最初に絵画のなかでつくりだした画家であり、ぼくは、エルンストに讃歎するように、かれに讃歎する。絵の内容についていえば、密室から這いだした虱のように、ぞろぞろとつながって歩いていく奇怪な群像は、歩きださざるをえないから歩いているのであり、歩いているから、方向を摸索せざるをえないようにみえる。方向が摸索されたとき、このシリーズは完結するだろう。そして、河原はまた新しい表現手段を摸索しはじめるだろう。》 この印刷絵画がどのようなものか、たまたま下記のサイトにアップされている。参照あれ。 河原温の印刷絵画「いれずみ」 この本について検索しているとき、同年四月、江原順の紹介によって吉岡実が河原温の「浴室」シリーズの一点を購入したことを知った。『ユリイカ』に頒布会の栞が挟まれるわけだから吉岡が河原温を買っても格別不思議ではないはずなのだが、やはりちょっとした驚きというか感動である。銀座ウエストで会ったというのもしゃれている。 《河原温〈浴室〉:吉岡の日記(一九五九年四月一二日)に「銀座、ウェストで江原順の紹介で河原温と会う。「浴室シリーズ」の一作品をわけてもらう」とある。また「河原温様/1959.8/吉岡實」と献呈署名した詩集《僧侶》(河原温の蔵書印 入り)が存在する。》 吉岡実書誌(小林一郎 編)
by sumus2013
| 2017-03-26 21:14
| 古書日録
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Comments(2)
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