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林哲夫の文画な日々2
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汽車の罐焚き

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矢部登さんより『田端人』第二輯(二〇一六年十二月)が届いた。味わい深いエッセイが並ぶ。巻頭は「田端機関区」、そのなかに中野重治『汽車の罐焚き』(細川書店、一九二七年)が登場している。

《緊迫した二十ページほどの文章のタッチはすばらしい。カタカナの言葉のリズムが疾駆する機関車の音ともかさなる。いつのまにか作中の罐焚きとなったわたしは緊張感に身ぶるいし、機関士と罐焚きへよせる作者の詩に感動する。

とこう書かれては、読みたくなるではないか。幸いにも細川書店版の『汽車の罐焚き』を架蔵するので早速取り出してきた。今までどうして読んでいなかったのか、手にして判った。アンカットなのだ。ページを切るのがもったいなくて読んでいなかった(他の版でも読めます、もちろん)。ごく一部を抜書きしておく(元テキストは旧漢字)。

《牛ノ駅通過。
 そして出発信号機からどれだけ進んだかと思つた途端にドラフトの音が変つた。ぐわあツというひびき、同時に爆発的な勢いで湯気と煤煙がまくりこんできた。トンネルへはいつたのだ。
 ものすごく反響するドラフトの騒音。一ぱいになつた湯気と煙とでウオーターゲーヂはもう見えない。プレッシャーゲーヂもぼんやりとしか……中原は気が狂つたように砂ハンドルを動かした。がらがらン、がらがらツ……機関車の下で物の砕けるようなすさまじいおとがした。鉄のやけるにおいがくる。と、スピードがぐぐぐうツとおちた。
「空転だ!」
「火床がひつくらかえるぞ!」
 鈴木は無我夢中でファイヤドライをひきあげて腕シヨベルをふりまわした。
「おい! テンダのクーラー出してくれえ!」
…………
 煙にむせて鈴木は声がでない。手さぐりでクーラーのコックをさがすと彼は足で蹴とばした。
 やつと空転は止まつた。中原がまたレギュレーターをあける。また煤煙がはりつめてくる。ゲーヂの針がさがつた。投炭。インゼクター。水をきらしたら万事休すだ。鈴木は全身汗ぐつしよりになつた。口と鼻にあてたタオルはまつ黒になり、それを通して鼻の孔があつくなり、のどがえがらるぽくひりついている。
 煙突の上の口へ顔をつつこんでいるような苦しい幾秒がすぎて中原が「閉めるツ!」と叫んだ。のぼり勾配を頂点までのぼりきつてくだり勾配にさしかかつたのだつた。煙と湯気とが身をかわすようにかけ去つた。ハンドレールやブレーキハンドルに黒い露の玉が一ぱいとまつている。
 スピードがでた。一そうはやく……。》

ふう、たしかに迫力の描写だ。本書に挟まれた「細川だより」には機関車用語の説明が付されている。

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「田端機関区」に続く「たそがれ」は小品連作、まず「お坊坂」には吉田泰司と芥川龍之介が登場、そして室生犀星「古本屋」というエッセイに描かれた古本屋とのやりとり(犀星の負けん気の強さがうかがえて興味深い)。駒込駅近くの菓子舗中里主人・鈴木三安の随筆集『野人の夢』について、矢部氏鐘愛の清宮質文と結城信一について、湯呑について、津軽の福井さんについて。まったく読み終わるのが惜しい気さえするのだが、小冊子なのでアッという間に読み終わってしまう。もう一度読み返そう。


『田端人』第一輯(二〇一六年八月)

by sumus2013 | 2016-11-26 15:44 | 古書日録 | Comments(0)
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