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林哲夫の文画な日々2
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ツルニャンスキー

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体調いまいちだったのだが(風邪が治り切らず)山崎佳代子さんのお話を聞きたかったので「第305回日文研フォーラム セルビア・アヴァンギャルド詩と『日本の古歌』」(於:ハートピア京都)へ。コメンテーターは沼野充義、細川周平。「百年のわたくし」で山崎さんのことを少し紹介したが、会場でもらったハンドアウトを見ると詩人でありベオグラード大学教授、日文研外国人研究員とのこと。

前半は山崎さんの講義。セルビアの地勢や大雑把な歴史、アヴァンギャルドやジャポニズムの説明におよんだので一時間ではとうてい語り切れない濃い内容であった。彼女の論点を絞ると、セルビアの詩人で「スマトライズム」を唱えたミロス・ツルニャンスキー(1893-1977)が日本の古典的な詩歌から受けた影響、とくに桜の花のはかなさ(無常観)からの影響の大きさということである。それらはセルビアの音楽にもインスピレーションを与え、また俳句は現代においても実作として受け継がれ作り続けられている(英語やフランス語の俳句も盛んだが、セルビアでも!)。スマトライズムというのは要するに彼らが全く知らない土地の名前(スマトラ)をつけた自由詩の主張のようだ。

ツルニャンスキーは一九二〇年のパリ滞在において東洋主義の洗礼を受けた。その刺戟からアンソロジー『中国の抒情詩集』(一九二三)および同じく『日本の古歌』(一九二八)をセルビア語に翻訳出版した。山崎さんの話では中国の詩集よりも日本の詩歌の方がセルビアでは人気が高く(アンソロジーの構成に花と悲恋をテーマとしてストーリー性をもたせたためだろうとのこと)、歌曲の歌詞としても採用されているという。

セルビアでは果樹の花というのは愛でるものではなかった。桜といえばさくらんぼであってそれは赤い実のイメージが第一に浮かぶ。これはロシアでも同じと沼野氏が後半の鼎談のときに補足しておられた。チェホフの「桜の園」はじつは「さくらんぼう畑」という訳の方が近いかもしれないと。ツルニャンスキーはその果樹の花である桜花を好んでうたう日本の詩歌に接することによって自分自身も桜をうたうことになる(ただし満開の花だけ。散りはてるさまにまで彼らの意識は及んではいないとも)。

f0307792_19413088.jpg

一例としてツルニャンスキーの訳した俳句が配布されたプリントに引用されているので孫引きしておく。


 蝶とらえんと
 ああ、かけていく、はるかに
 はるかに


さてこの元歌は……千代女とされる「蜻蛉つり今日はどこまで行ったやら」だそうだ! トンボが蝶に変ってしまっている。山崎さんはツルニャンスキーが参照した英訳や仏訳がどうなっているか確認したいとおっしゃっておられたが、あるいは故意にチョウに変えたのかもしれない。ついでにツルニャンスキーの作品「スマトラ」も引き写しておく。


   スマトラ

 今は、僕らは やすらぎ、軽やかで 優しい
 想いうかべよう、ウラル山脈の雪のつもった頂の
 なんと静かなこと

 あの夕暮れに失った 青ざめた顔が
 僕らを悲しくさせるとき
 きっと どこかで 小川が 彼のかわりに
 茜色して 流れているはず

 ひとつまたひとつ愛は、今朝、異郷にて
 果てしなく 穏やかな青い海原に
 しっかり 僕らの魂をつつみこむ
 海では サンゴの実が まるで 故郷の
 桜の実のように 赤く色づく
 
 僕らは夜に眼をさまそう、微笑みかける、やさしく
 張りつめた弓の月に
 そして愛撫しよう 遥かな丘を
 凍りついた森を、そっと、この手で
                     ("Sumatra", 1920)



後半の鼎談もあっという間に終わってしまって、もうすこしいろいろ聞いていたかった。

by sumus2013 | 2016-11-15 20:44 | もよおしいろいろ | Comments(0)
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