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林哲夫の文画な日々2
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アメリカ人

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村上春樹;文、大橋歩;画『サラダ好きのライオン 村上ラヂオ3』(マガジンハウス、二〇一二年七月九日、装丁=葛西薫)。アメリカ大統領が決まったときにたまたまこの本の「ワシントンDCのホテルで」というエッセイを読んでいた。

村上春樹はアメリカに何度か住んだこともあり、個人的なつきあいも少なくないが、アメリカ人について考えるたびにワシントンDCでのある日の出来事を思い出すという。ホワイトハウスの正面ゲートのすぐ近くにあるホテルにチェックインしようとしていた。フロントはあいにく混み合っていた。日本から着いたばかりで早く部屋に落ち着いてシャワーを浴びたかった。列をつくって順番を待ってようやく自分の順番がきたと思った瞬間、白人の男が横から割り込んできた。

《ピンストライプのスーツに派手なネクタイをしめた、いかにも右派のロビイストみたいな、堂々たる体躯の中年男だった。
 「すみません、僕が先に並んでいたんだけど」と言うと、彼は「あんたはそっち側に並んでいただろう。俺はこっち側にいたんだよ」と言い張る。でも人々はフロントの前で自然に一列になって順番を待っていたのであって、そんなの理屈にもならない。でも男は僕の言い分を相手にもしない。すると僕の後ろにいた白人の男が「いや、あなたはよくない。こちらのジェントルマンはずっと列をつくって順番を待っていたんだ。そんな風に割り込むのはフェアじゃない」と僕のために抗議してくれた。
 でもその人は小柄で、痩せて、眼鏡をかけていて、どう見ても押し出しが弱い。公立高校の歴史の先生みたいにしか見えない。ロビイストはじろっと彼を睨みつけ、鼻で笑って黙殺し、そのまま先にチェックインしてしまった。僕とその人はあきらめて、お互いに首を振った。その手の人物に道理を説くのは、動いているブルドーザーを阻止するよりもむずかしい。「すまなかったね。アメリカ人がみんなああじゃないんだ」と彼は言い訳するように言った。「もちろんわかっています」と僕は言った。「日本にだって、ろくでもないやつはいっぱいいますから。とにかくありがとう」。そして僕らは握手をして別れた。》

村上春樹はアメリカ人について考えるときに常にこの二人を思い出すという。今回も思い出したのかな……それにしてもこれはフロント係がさばかなきゃいけないんじゃないの?

by sumus2013 | 2016-11-14 16:55 | 古書日録 | Comments(0)
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