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林哲夫の文画な日々2
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ハイカラ神戸幻視行

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西秋生『ハイカラ神戸幻視行 紀行篇 夢の名残り』(神戸新聞総合出版センター、二〇一六年九月二八日、装釘=戸田勝久)読了。二〇〇九年に前作を紹介しているが、その姉妹編である。

西秋生『ハイカラ神戸幻視行 コスモポリタンと美少女の都へ』

谷崎やタルホなど多く重なる部分はあるものの、本書は地霊(ゲニウス・ロキ)に導かれた紀行篇というかフラヌール篇。居留地、北野、三宮、トアロードなどはもちろん東は芦屋から西は須磨まで、それぞれの土地にゆかりの芸術家や実業家たちの活躍をいきいきと描き出してくれている。

【喫茶店の時代】で言えば三宮の「パウリスタ」についての言及がたいへん参考になった。

《昭和十四年(一九三九)、中山岩太が神戸市観光課の委嘱を受けて撮影した連作『神戸風景』に、トアロードは何点も取り上げられているが、中にカフェパウリスタが移った一枚がある。》

《神戸のパウリスタは大正二年(一九一三)。トアロードの、当時まだ高架線になっていなかった国鉄の踏切を下った先、東南の角地の木造洋館で創業した。》

今東光『悪童』に踏切際のパウリスタが登場すること。そして中山岩太が撮影したのは大正九年に新築移転した建物で、当時は最新のビルだったこと。新開地本通りの「扇港薬局」を営んでいた二十二歳の横溝正史は元町にあった「ブルーパゴタ」の紅茶とカフェパウリスタの《少し泡立った珈琲を愛飲した》。薄田泣菫『茶話』にカフェオリエントとカフェパウリスタを取り違えるスケッチがある……など。他にもガス、ユーハイム、カフェダイヤモンド、オリオン、元町の喫茶店などが登場して興味が尽きない。

横溝正史といえば、

《この途中に日本SFの源泉として記念すべき土地がある。加納町二丁目の交差点の東南角の井上勤旧居跡で、この人は明治十三年(一八八〇)、ジュール・ベルヌ原著『九十七時間二十分間月世界旅行』を大阪の書林・三木佐助から翻訳刊行した先覚者である。》(瀧へ行く道)

《公園の麓にある中央図書館は、日本探偵小説の源流の一つである。大正十年(一九二一)、落成直後にここで開催された講演会で、当時の高名な評論家。馬場孤蝶が海外の探偵小説の動向を紹介したのを聴いた江戸川乱歩が刺戟を受け、デビュー作「二銭銅貨」を執筆するに至ったのである。この講演会には地元の横溝正史も来ていたが、その時には面識がなく、お互いそれとは知らなかった。》(大倉山から国会へ)

《西柳原にはもう一人、夢幻の主が住んでいた。明治二十六年(一八九三)に生まれた当地の裕福な地主・西田政治である。》《かれは乱歩以前から活動する探偵小説の先覚者であって、大正九年、雑誌「新青年」が創刊になると即座に短篇「林檎の皮」を投稿、八重野潮路のペンネームのもとで掲載された。横溝正史の年上の朋友である。》

さすが神戸、海外の新しい傾向には敏感だったようだ。神戸を愛した外国人も多数登場する。再度山(ふたたびさん)修法ヶ原の外国人墓地に葬られている外国人には以下のような人々がいるそうだ(一部抜粋)。

日本初のラグビーチームを作ったエドワード・B・クラーク
関西学院創設に関わったジェームス・ウイリアムス・ランバス
ラムネ製造のアレキサンダー・カメロン・シム
神戸港長の初代ジョン・マーシャルと二代目ジョン・マールマン
大阪鉄工所(日立造船所の前身)を設立したエドワード・ハズレッド・ハンター
神戸女学院を創立したイラルザ・タルカット

なるほどたしかに神戸とはハイカラとモダンという言葉にこめられた日本人の西洋憧憬を憧憬でなく現実のものとしていた稀有な都市であった。

前著を評して文学地図があればカンペキと書いたが、本書巻末には見やすい地図が附せられている、これ以上言うことなし、の出来である。

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戸田氏のカバー画、これぞ神戸!(幻視のトアロード)


by sumus2013 | 2016-09-25 20:38 | おすすめ本棚 | Comments(2)
Commented by みなみ at 2016-09-25 22:36 x
9月3日、西宮・甲陽園の『パウリスタ』がいよいよ取り壊されることになり、1日かぎりの見学会にでかけてきました。
しかし新聞5紙の阪神面で紹介されたため、ひとめ建物内を見ようという人々が長蛇の列。
その数、800人だったとか。30分並んだところで、外観をおがめたことであきらめました。
この『大阪カフエーパウリスタ支店』は、木造3階建ての洋館で、大正8年生まれ。
当時、甲陽園にあった撮影所の映画関係者で、にぎわっていたそうです。
Commented by sumus2013 at 2016-09-26 09:13
それは知りませんでした。まだ残っていたんですねえ!
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