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林哲夫の文画な日々2
by sumus2013


宇宙律動

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ミルフォード・グレイヴス&土取利行 パーカッションデュオ『宇宙律動』」をロームシアター京都で聴いた。某氏よりチケットを頂戴した。ミルフォード・グレイブスには全く詳しくなかったので多少予習をしてみると、なんとも素晴らしいアーティスト。楽しみに出かけた。

上下白い衣のミルフォードが現れドラムセットの前に陣取る。つづいて土取氏が現れ、ドラムスの前へ出て来て軽くダンスしながら両足首に付けた木製の鈴をならす。ミルお得意のドラをガーン、ガーンと鳴らして演奏はスタート。ミルは歌とも吼えているだけともとれる声を発しながらドラムをたたくたたく。左手の肘でドラムの表面を押さえつつ同じ左手に持ったスティックで押さえた面を連打。右手はスティックの中程を握って尖端でシンバル、後端でドラムを同時に打つ。トシ(土取氏)の方は舞台上に広げられたさまざまな打楽器を駆使してミルと掛け合い、たたきあい。圧倒的な迫力だった。

途中で、ミルは少し語りを入れた。日本に初めて来たのは一九七七年だそうだ(上の「メディテーション・アマング・アス」のころだろう。トシとのセッションもこのとき以来だろうか)。日本のオーディエンスに多少のお世辞を。そして初公開だと言いながら自らのポリリズムについて講釈。ビーバップ、フリー、カリプソだそうだ。ビーバップのリズムは右手の人差し指と親指で取れる、フリージャズは左手で。右手と左手で両方同時にできるんだ。ポリリズムなんて言ってるけど、ふたつは別々のものじゃなくて同じものなんだよ、と実演。右手に二本のスティックを挟んでパンスカパン。左手はフリーでドドドドド。左足ハイハットが心臓の鼓動のようにシャンシャンシャン。ときおり右足ドラムでドン、ドン、ドン。人体総リズム。

最後はドラムセットから立ち上がったミル、木琴の前に。ちょっと風変りな木琴だったがいい音がしていた。その間、トシが舞台を下りて聴衆のなかを一回り。空いている座席の背をバチバチ連打連打。若いお客さんの肩こりまでほぐしていた(笑)。演奏が始まっておよそ一時間経過。一旦、終了の感じになっていたのだが、もう少しやりたいというミル。折りたたみ式の杖を鞄から取り出した。腰が悪いそうだ(そう言えばYou Tubeに出ていた一九九六年の来日では踊りを披露していたのだが、今回はそれはなかった)。ステッキを突き突きステージから客席の方へ下りようとする。「ステップはないのか?」とぶつぶつ。いきなり舞台面にうつ伏せに寝転んでそのまま足からごろりと下へ。トシが小さめの太鼓を抱えて後ろから付き従う。会場の中央席をひとまわりして聴衆を賑わし、そのまま下手の出入口へ二人で去って行った。スタンディング・アプローズ。

ミルフォード・グレイブスは七十五歳。飛行機に乗るのが苦痛だと言っていたから日本ではもう二度と見られないステージかもしれない。歴史的な場面に立ち合った感じがした。

客席は六割くらいの埋まり具合だった。フリージャズの時代を知っている世代が三割か四割、後は若い人が意外に多かった。残念だったのは、アンプで音量を増幅していたこと、これは逆効果。生音の方がもっとずっと良かったはず。妙なライティングも眩しくて邪魔なだけ。ドライアイスの煙にいたっては言語道断であった。


by sumus2013 | 2016-09-04 19:55 | おととこゑ | Comments(0)
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