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初期絵画とペン画富士正晴記念館から『富士正晴資料整理報告書第21集 富士正晴記念館所蔵 初期絵画とペン画』(富士正晴記念館、二〇一六年二月二九日)が届いた。本書には初期絵画十五点のカラー図版およびペン画二十三点のモノクロ図版および先日(二月二十日)の講演 筆にきいてんか 画遊人・富士正晴 とほぼ同じ内容の拙文が収録されている。実際にはこの文章を先に書き、それをふくらませて講演をしたので、講演で話したときの方が少し深くはなっているが、全体の論旨は変らない。 拙文の他に中尾務「ポンカ登場まで」と題した詳細な富士正晴の初期絵画についての解題も収められている。「ポンカ Ponca」というのは二十歳前後の富士正晴が使っていたペンネーム(サイン)である。 参考までに拙文の結論らしき部分を引用しておく。これは講演会ではしゃべらなかった。 《『紅楼夢』には賈宝玉という奇矯な少年がメインキャラクターの一人として登場する。玉を啣んで生まれ、腕白がひどく、大変な学問嫌いで、女子どもといっしょにいるのが好き。その豪邸へ従姉妹の仙女のような黛玉がやって来たとき、宝玉は彼女に向かって「お前は玉を持っているか?」と訊ねる。黛玉がそんなものは持っていないと答えると、いきなりヒステリーの発作を起こした。自分の持っている玉をもぎ取り、投げ捨てて、何が珍しい物だい、人の高低もわからぬくせに、通霊だとか不通霊だとか、何いってやがる、などと罵り始める……。このくだりを読んでハッとした。玉を啣みながら、どうしてもそれを受け入れられない、富士正晴とはまさに宝玉その人だったのではないか? 富士がこの作品を好んだ理由もここにあるのではないか。富士の呑み込んだ玉の輝きが初期絵画から放射している、そう思われてならない。》 富士正晴記念館
by sumus2013
| 2016-04-01 16:31
| 文筆=林哲夫
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