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林哲夫の文画な日々2
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呪われた本

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田中栞『書肆ユリイカの本』(青土社、二〇〇九年)によれば『心象風景』にはジャケットがあったそうだ。神奈川近代文学館所蔵本についてのくだりにこうある。

《『心象風景』は所蔵する三冊のうち一冊だけにジャケットがあるが、これは和紙に木版刷りと思われるもので、かなり傷んではいるもののよくぞ残っていたと感嘆せずにはいられない》

さらに「牧野信一『心象風景』の謎」という項目もあっておおよそ以下のような事実が記されている。

伊達得夫『詩人たち』のなかに「呪われた本」という一文がある。『心象風景』を宇野浩二の検印紙をつけて二千部発行し配本をすませた翌日、伊達は「一二三頁の裏が一三四頁になっている」のに気づいた。配本したばかりの本を取次店から回収して印刷屋に印刷のやり直しをさせた。しかし訂正後の配本は思うようにできず、残った一千部を印刷所に預けていたところ、一週間後に印刷所が火事になった。本は全部焼失した。

田中さんは国立国会図書館と神奈川近代文学館にある四冊の『心象風景』を調査する。国会の一冊は発行日に訂正があった。カナブンの三冊には訂正貼り込みはなし。上記印刷ミスについては四冊とも差し替えた様子は見られない。印刷し直したなら『心象風景』の場合少なくとも誤植のある頁も含め四頁分を取り替える必要がある。

昨日紹介した小生架蔵本は宇野浩二の検印紙あり、一二三頁の裏は一二四頁である。抜き取り訂正の痕跡はない。

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その後田中さんも古書店で『心象風景』を入手した。ところがその本では二一七頁から二二〇頁までの四頁が貼り込みされていた。改めて上記四冊も調べた所、同じように二一七頁から二二〇頁までの四頁を差し替えた痕跡があった……

その理由は小生架蔵本で明らかである。220とあるべきノンブルが120となっているのだ。けっこうややこしい。とにかくこの本には幾つかのヴァリアントが考えられるということになる。

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もう一点、国会にある発行日貼り直しの奥付が田中さんの本の図版に出ているが、これもまたちょっと面白い。

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「6」月であったところを「9」月に訂正しているわけだが、よく見るとこの「9」はどうやら逆立ちした「6」なのではないか? 9だけを別に印刷したのではなく既存の6を切り取って逆さまに貼り直したようにも思える。う〜ん、これもまた謎である。

たしかに伊達が「呪われた本」と呼んだ気持ちがよく判るような気がする。

by sumus2013 | 2016-02-11 19:42 | 古書日録 | Comments(0)
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