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林哲夫の文画な日々2
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太宰治の借金

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小山清編『太宰治の手紙』(河出新書、一九五四年一一月一〇日二刷、装幀=庫田叕)。押入の段ボール箱を開けて少しばかり本を整理した。そのときすっかり忘れていたこの本が現れた。淀野隆三の日記を読んでいた時期に淀野資料として求めたもの。太宰治が淀野に宛てた四通の手紙が収録されている。

いずれも昭和十一年四月に千葉県船橋町五日市本宿千九百二十八番地から京都市伏見区大手筋の淀野に宛てて発せられている。淀野は東京を引き上げて家業の鉄材商を引き継いでいた。小山清の註によればパビナール中毒が進んでいた太宰は一日四十筒も注射するパビナールの代金に窮していた。ほとんどの友人に借金を申し込んだという。その典型がこれら四通である。

《唐突で、冷汗したたる思ひでございますが、二十円、今月中にお貸し下さいまし。
 多くは語りません。生きて行くために、是非とも必要なので、ございます。
 五月中には、必ず必ず、お返し申します。五月には、かなり、お金がはいるのです。
 私を信じて下さい。
 拒絶しないで下さい。
 一日はやければ、はやいほど、助かります。
 心からおねがひ申します。
 別封にて、ヴァレリイのゲェテ論、お送りいたしました。
 私の「晩年」も、来月早々、できる筈です。できあがり次第、お送りいたします。しやれた本になりさうで、ございます。》(四月十七日付)

《謹啓 
 私の、いのちのために、おねがひしたので、ございます。
 誓ひます、生涯に、いちどのおねがひです。
 幾夜懊悩のあげくの果、おねがひしたのです。
 来月は、新潮と文藝春秋に書きます。
 苦しさも、今月だけと存じます、他の友人も、くるしく、貴兄もらくでないことを存じて居りますが、何卒、一命たすけて下さい。》(四月二十三日付)

《謹啓
 こんなに、たびたび、お手紙さしあげ、羞恥のために、死ぬる思ひでございます。何卒、おねがひ申します。他に手段ございませぬゆゑ、せつぱつまつての、おねがひでございます。たのみます。まことに、生涯にいちどでございます。》(四月二十六日付)

《淀野さん

 このたびは、たいへんありがとう。かならずお報い申します。私は、信じられて[五文字傍点]、うれしくてなりません。けふのこのよろこびを語る言葉なし。私は誇るべき友を持つた。天にも昇る気持ちです。私の貴兄に対する誠実を了解していただけで[ママ]、バンザイが、ついのどまで、来るのです。》

淀野は三好達治にも尽したし、梶井基次郎に対しても親身な献身をした。他にも多くの文学者を助けていた、あるいは当てにされていた。太宰に二十円(今の金高なら十万円足らずか?)くらい貸しても四通の手紙(しかも借金申し入れの文章としては傑作中の傑作)をもらえばつまらぬ抵当よりも価値はたしかであろう。

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「烏城閣/古本売買/黒崎書店/阪和南田辺駅西入」のレッテル付き。黒崎書店については下記サイトが詳しい。そこに四種のレッテルが掲載されているが、このレッテルはそれらとはデザインが異なる。

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by sumus2013 | 2016-02-09 21:04 | 古書日録 | Comments(0)
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