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林哲夫の文画な日々2
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『壺』第八号(提壺会、一九三四年七月一日)。編輯兼発行者は吉田博一。発行所住所は兵庫県武庫郡精道村芦屋字樋口新田七一四、吉田の自宅であろう。国会図書館に創刊号から十号(終刊)まで所蔵されている。陶磁器の雑誌かとも思われるが、内容的にはもっと総合的な芸術随筆を集めた編輯である。本号の目次を掲げておく。

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昨日に引続いてパリネタ。椿貞雄「パリ行」を簡単に紹介してみる。椿がパリへ渡ったのは昭和七年のようだ。《子供達の貯金迄かき集めての貧乏旅行》なのに為替レートが悪くなって《パリに居る内に日本の金が半分になつたのだから不運と言へば不運と言へる》。

《パリでは急に帰国する人があつてバス台所付きの素晴しい最新式のアパルトマンを安く譲り受け、それも一階に住んでゐたのだから豪盛なものだ。あんなアパルトマンのしかも一階に住むなぞと言ふ事はブルジヨアでなければ到底出来ない事なのだ。それにフランス語の先生に早速来て貰ふし、モデルを使つて勉強もする悠々とカフエーへも行くし、たまには晩食を人におごつてもやつたし、少々は金も貸してやつたし、それに運のよかつた事は、パリに行くと間もなくオランダにレンブラントの大展覧会とゴオホの大展覧会があつて、英国や独逸迄出掛けなければ見る事の出来ない絵を一遍に見る事が出来たし、スペイン及イタリーをミラノからナポリ迄は見て来たし、それにパリではマネーの大展覧会があり、ヒカソ[ママ]の二年振りの最近作と一緒に初期からの作品を集めた大展覧会があつたし、帰へる前リユドセイヌのカルミンと言ふ画商で僕自身の個人展覧会を半月間開催した。》

《何しろパリのパンとコーヒーは実にうまいから(僕の知つてゐる限りあんなにうまいパン、コーヒーは無い)それを齧つても簡単に済ませるが、僕はイタリー米を買つて来て自炊をやつた。味噌も醤油もカツヲブシも味の素も売つてゐるし、器用な人はパン屑とビールの残りなどでヌカ味噌漬を造ると言ふ。》

《時々友人が僕のアトリエに集まつて鋤焼をやつたが、思ひ出すと懐かしい。しかしあつちの牛肉は変に水ツポくて味が悪るく日本の牛肉にくらべて段違ひにまづい。》

《兎に角僕は最初から美術のみの勉強に定めてゐたから、他の事で金を使ふ事を極力避けた。》《頭髪もカミソリでけづり落して間に合せた考へて見ればコーヒー一杯が日本の金で四五拾銭するのだから馬鹿に出来ない。》

昭和七年なら日本で飲むコーヒーは十銭から二十銭だったろう。為替レートが半分を考慮してもパリのコーヒーは高かったということになる。美術ではレンブラントの傑作を数多く見て腰が抜けたほどに感動した。ただしルーブル美術館の造りには感心しなかった。

《王宮をそのまゝ美術館としたもので採光が悪るいせいもあるだらうし、絵の陳列の仕方がゴチヤ[繰返記号]してゐるせいか実に見にくい處だ。それに絵の取扱ひや保存法にもあまり熱心でないらしく思はれたが、美術国と言はれるフランスの恥だと思ふ。凱旋門をみがき上たり、切角古びのついたオペラを塗りかへたり、フランスにもわけのわからぬ人間は相当多いと見へる。》

また和食についてこんな意見も吐いている。

《しかし料理は日本が世界一だと思つた。と言つても向ふの第一流のレストランを食ひ廻つたわけでないから大きな事は言へないが、何もかも油でいためて造る料理なぞは下の下と思ふ。日本の季節料理、ことにそのものゝ持味を大切にする事、そして食膳の構図や食器に対する神経、日本ぐらひ進んでゐる處はないと思ふ。第一日本のオツユぐらひ微妙で味の深いスープはどこにあると思ふ。》

昭和七年でも昨今と同じようなことを言う人間がいたのだと思うと興味深くはある(そう言えば魯山人も似たようなことを言っていたような気もする)。「料理は日本が世界一だ」などと日本人が言うとお国自慢にしか聞こえない。これはフランス人に言ってもらわなければならないわけで、そういう意味では最近になってようやく風向きが良くなってきたように思わないでもない。だからラーメンが流行っているねというのとはちょっと違うのだが、ま、それでもよしとするべきか。

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by sumus2013 | 2016-01-26 20:59 | 古書日録 | Comments(0)
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